遠回り
HAL

東の山肌の頂きが淡い桃色に染まる
その桃色は歩いて下るかのように
麓へとゆっくりと拡がるさなか

頂きは桃色に重なり橙色に代わり
その色に蒼と紫色が混ざる
そして麓も頂きと同じ色に染まっていく

だが西側の山肌は雪の真白(しんぱく)のまま
東の山肌に朝の色彩が訪れていることを
知らないままに純潔を保つ

やがて東の山肌は蒼と紫色を飲み込み
朱から鮮明な赤に代わる
東と西の美しい天才の画家でも出せない色彩の対比

天空からマッターホーンを捜すが
天空からは一度もその姿を視たことがないので
どれがマッターホーンかは分からない

だが生まれて初めて知る神々しいとは
こういう情景を指すのだと想い知る

南周りだから視れた正真正銘のアルプス山脈
遠回りだからこそ視れた美しいという言葉では
収まらない神は存在することのひとつの証明(あかし)

そうその飛行機はローマで給油し
パリに向かってアルプス山脈を越える
それがたまさか朝だっただけのこと

でもすでにこころには刻まれている
遠回りでしか視られないものが
近回りでは視ることのないものがあることは
なぜか余りにも生にも似ているのではないかと


自由詩 遠回り Copyright HAL 2013-03-28 14:24:52
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