遠回り
HAL
東の山肌の頂きが淡い桃色に染まる
その桃色は歩いて下るかのように
麓へとゆっくりと拡がるさなか
頂きは桃色に重なり橙色に代わり
その色に蒼と紫色が混ざる
そして麓も頂きと同じ色に染まっていく
だが西側の山肌は雪の真白(しんぱく)のまま
東の山肌に朝の色彩が訪れていることを
知らないままに純潔を保つ
やがて東の山肌は蒼と紫色を飲み込み
朱から鮮明な赤に代わる
東と西の美しい天才の画家でも出せない色彩の対比
天空からマッターホーンを捜すが
天空からは一度もその姿を視たことがないので
どれがマッターホーンかは分からない
だが生まれて初めて知る神々しいとは
こういう情景を指すのだと想い知る
南周りだから視れた正真正銘のアルプス山脈
遠回りだからこそ視れた美しいという言葉では
収まらない神は存在することのひとつの証明(あかし)
そうその飛行機はローマで給油し
パリに向かってアルプス山脈を越える
それがたまさか朝だっただけのこと
でもすでにこころには刻まれている
遠回りでしか視られないものが
近回りでは視ることのないものがあることは
なぜか余りにも生にも似ているのではないかと