ジャポネーゼ・マンドラゴラ。
元親 ミッド
この季節の雨音は、近づく春の足音です。
街の影に隠れていた雪うさぎたちも
一斉に次の冬へと旅立って行くと
“また来るわぁ。”と
駆け足の2月もすれ違いざまにささやいて行きました。
きっともう、春が近いよ。
また、キミに会えるだろうか。
そう思いながらやってきた
博多湾を見下ろす、丘の上の小さな神社には
さくらの木がたくさんあって、いくつも蕾をつけていました。
いつか、近所のたばこ屋のばあさんに聞きました。
さくらの木の下には、誰かの死体が埋っていて
さくらはその死体の養分で、花を咲かせるんだって。
本来は、さくらは白い花なんだけど
死体の血を吸うから、ほんのりさくら色に色づくんだって。
その証拠に、さくらの幹が傷ついてしまったら
人の血の様な樹液がでるんだって。
だからさくらは手折ってはいけないよ。
間違っても、手折ってはいけないよ。
手折れば、死者が悲鳴をあげるんだよって。
彼女があのさくらの下にいるのを僕はまだおぼえてる。
暗い土の中でさくらの根が、キミの白い裸体に根を這わせ、
絡まって、吸って、かじり、舐めまわして、挿入し、
その体から血の気を奪って、
毎年、彼女を限りなく白い骨にしてしまうんだ。
そうしてあの蕾を膨らませてる。
初々しいさくら色したあの蕾をね。
もうすぐ桜は咲くんだろう。
美しい色で、あの青空を覆うだろう。
僕は耐えられるだろうか。
彼女の声を聞きたくなって
あの桜の幹を手折ってはしまわないだろうか。
ふと、そんな不安が胸をよぎる。
桜の開花宣言は、僕にとっては警報に他ならないのだ。