口笛の朝
平瀬たかのり

 そうだよいつもの朝だよ俺の朝だよ
 バックグラウンドトーキングは一〇〇八キロヘルツ朝日放送だ
 「おはようパーソナリティー道上洋三です」だったんだよ
 
 いつもの時間に♪エイビィシィィッ、こうつうっじょおうほぉう〜、と
 そうとも軽やかなジングルが鳴ってな
 交通情報センターのワダさんが話しはじめたんだ

 まさにそのとき俺は肉野菜イタメを作り終えたところで
 ボウルにザラザラザラリリリリ
 はっはっはっは、どんなもんだい もんなどんだい
 かかってこいこのやろう

 んがしかしまさにそのとき
 今朝も堂々厨房に君臨する
 混沌世界の創造主であるところの俺様を
 木端ミジンコ打ち砕いたは
 ワダさんのコロコロ弾むベッピン声による一撃
 
 「・・・・・・では野菜が散乱し六キロの渋滞です」

 なんだどうしたどういうことだ
 場所も高速名も聞きのがしてしまったではないか
 お願いだもう一回言ってくれワダさん
 出勤平日高速道路という日常に
 人参キャベツ玉葱ピーマンぶなしめじ
 が散らばったのか散らばったんだな
 足りないのは加熱後豚肉おぉいい感じに火が通ってるだけなのか
 そうなんだなきっとそうだそうにちがいないちきしょう

 俺はしゃべり続けるワダさんのベッピン声
 もはや無用と店を飛び出し
 このガッキと小脇に抱えしボウルの中の
 いまやサラダ油のキラメキ
 一秒ごとに消失しつつある野菜イタメ
 兵庫県道五三七号線上において
 思いきりぶち上げれば

 オレンジ色に若苗色
 乳白 ビリジャン 栗色
 ギラッと朝日に乱反射して舞い、舞い
 こうなったらもう空のボウルも
 ぶるぅん朝日に投げ上げたらピカピカっ
 横断歩道で跳ねて弾んでぐゎららぁん
 わあっはっはっはっ!
 
 なぁんて散乱に惑乱
 いつもの朝
 何も知らずに高速道路走り去る運転手の
 クラクション代わりに
 ピューイ
 俺様が口笛をひとふきしてやったのさ



自由詩 口笛の朝 Copyright 平瀬たかのり 2013-03-22 15:41:48
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