ジャミラが過ぎる
平瀬たかのり

 ランドセル揺らし揺らし
 男の子三人帰り道
 ぼくの一旦停止した車の前
 後ろを何度もふり返り
 キャキャキャ何度もふり返り
 横断歩道を渡っていく

 はて、何がそんなにおかしいのかと
 不思議に思っていたのだが
 理由はすぐに分かった
 制服の後ろ襟、頭頂部に引っかけたのが
 両手を上げてゆらゆらさせながら
 視界の左から出現したのだ

 ジャミラだ

 ときにともだちとひどいケンカをすると
 決まってこう言って別れた
 おまえとなんか絶交だ
 ともだちは言い返した
 おう、こっちも絶交だ

 だけど日曜日をひとつ越えるくらいには
 あら、もとどおり
 ぼくは四年生、仲直りのきっかけが
 そんなジャミラごっこだったことがあった

 でもな、子どもらよ
 彼が生きたのは
 遠い星に不時着し
 置き去りにされ、見捨てられ
 みにくい姿になってしまった宇宙飛行士が
 復讐にやってきた地球で
 ウルトラマンに倒されてしまうという
 お話の中なんだ

 きみたちもきっと
 ともだちとひどいケンカをすることもあるのだろうな
 でもそんなとき
 絶交だ、なんて言うな
 そんな言葉
 覚えても絶対につかうなよ

 ぼくに
 もう会えないひと、ひとり
 もう会わないひと、ひとり

 うん、今でもぼくは思い出せる
 ウルトラ水流を浴びて
 どろどろに溶けていった彼の
 あまりに悲しい泣き声を

 ぼくはゆっくりアクセルを踏む
 遠ざかっていく小さなジャミラの
 青い半ズボンから伸びたしなやかな足が
 にじんで見えることもない


自由詩 ジャミラが過ぎる Copyright 平瀬たかのり 2013-03-20 15:23:13
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