現実へ
動坂昇
20世紀の作家たちの夢見た近未来は、私たちのもとにそのまま訪れることはなかった。あの夢と今この現実は大きく隔たっていて、おそらくこれからも近づきはしない。それでも確かに私たちは、ある意味ではあの作家たちの思い描いた21世紀を生きてもいる。ロボットそのものは人間の生活に普及しなかったが、ロボットのように働かされる人間は増えている。反乱を恐れた人間たちによるロボット排斥運動は起こらなかったが、低所得者や在日外国人の存在を恐れたどちらかというと富裕なナショナリストによる生活保護批判や排斥運動は起きている。近未来SFの作家たちは気まぐれな思いつきをただ並べたのではなくて、たとえ人間の世界にどれだけ新しいものが増えたとしても古くからつづく問題は相変わらず取り除かれずに残るという現実を伝えているのだ。そして、ひとは決意をもってその現実と闘わねばならないということも。