メカこいさん
平瀬たかのり

 さあ こいさん着きましたで
 わてら思い出の法善寺
 水掛け不動さんへ

 覚えたはりまっかこいさん
 わてが初めて〈元祖メカ割烹・Fuji=Yoshi〉に
 奉公に上がった晩
 こいさんがここに連れてきてくれはったのを

 こいさんはお不動さんへ一心に
 ギ、ギガガ
 いうて長いこと
 その銀色の機械の手ぇ合わせてくれはった
 分かってます、ええ分かってますともこいさん
 「はよう立派な板場はんになりいや」いうて
 わてのために願かけてくれてはったんでっしゃろ
 分かってますともこいさん

 わては、わてはあの時から
 こいさんに惚れてしもうたんです

 こいさんもこんな半人前の気持ち
 ギュ、ギュルルプシュー
 いうて受け入れてくれはった
 嬉しおました
 わて、ほんまに嬉しおました

 そやけど惚れおうてはいても人とメカ
 強烈なロケットパンチの一撃と引きかえに
 親方はんが二人の仲をどうにか許してくれはった後も
 世間の風は冷とうおましたなあ
 いいえ、いいえ
 辛かったのはわてだけやおまへん
 こいさんのほうが、もっと、もっと

 ギ、ギガガ

 ほらこいさん見とぉくんなはれ
 水掛け不動さんの肩のところ欠けたままですわ
 あれはあのときこいさんが
 その可愛らしい口、ピーガシャッって開いて
 噴射しはったジェット水流の勢いが強すぎて
 苔ごと吹っ飛ばしたからですわ
 こいさんのやさしい気持ちが
 ああして残ってるのを見ると
 わて、わて

 ギ、ギガガ

 三年、三年待っとくれやすこいさん
 立派に修行積んで三年経ったら
 きっと一人前の板場になって帰ってきますさかい
 そしたら、そしたらこいさん
 そのときは晴れて、晴れて
 夫婦に

 こいさん
 ギ、ギガガ ウィ、ウィイーーン

 ひしっ
 ガチャッ

 あ、こいさんちょっとキツイ
 こいさんキツイです
 キツイってこいさん
 こ、こいさん、ほら、わての骨ボキボキいうてる
 こい、さん、わて、鼻血出てきた
 こ、いさ、ん、わぁ、耳血も出てきた
 
 あー、あー
 あー、わて、もうあきまへんわぁ
 うわっ、目ん玉落ちよった

 こいさん
 三年、待てまへんでしたかぁ

 ギ、ギガガガガガガ


  [参照及び一部引用 十二村哲作詞(飯田景応作曲、藤島恒夫歌唱)
    「月の法善寺横丁」]


自由詩 メカこいさん Copyright 平瀬たかのり 2013-03-16 20:09:35
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