聞こえないうた
破片(はへん)

子どもたちの語彙が拙いから。

とんぼ
だけど

高いビル
飛行機
ねこ
ぬれてる
もうツバキが、
だって
ともだち
晴れ
寒い
/ぼくらの/聞こえないうた/呼ばないで

拙いから。子どもたちのひらけた世界を、わたしたち大人が、かわりに、描出してやる営み。

注釈のような仰々しい散文が、降り注ぐ。
寒さや飢餓に墜落したとんぼ、何処へ行ったの。
その腹、遠目にプラスティックのような軽い硬さ、
けれど容易に押し潰せる、齟齬に、
叫いてください。
一度も、雨を浴びたことのない椿の首が、落ちる。
濡れそぼって膨張した猫の毛を撫でてやること。
放射冷却の厳しい、快晴の下、歌い出せないほど、
凍える唇で。

拙いから。描き出してやりたい。腹立たしい気持ちが、羨望に取って替わる。言葉の、ひどい乱用を、ひどい浪費を深呼吸で、鎮めてやりながら。

そののどを切り開こう
次にそこへ管を通す
青くない水をね、管へ注ぐ
管を通る水に空気の
泡がまざらないように、
大きな水そうの、円筒の、
真ん中だけを取り出して
水そうは、深い青 くらい青

聞こえないうた。
超低空で小さなセスナが飛び、
強く振れたブランコのつま先に
雲とまちがう色のはらがぶつかる
そうやってかき消された、
うたは、のどのおくへ、
注入されたひとしずく
真っ白で、光をさえぎれない
カーテンの、揺れる、無音に
大げさな注しゃくが、生まれて、
ぽちゃん、と。

/ともだちが消えてしまわないように


自由詩 聞こえないうた Copyright 破片(はへん) 2013-03-16 03:48:37
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