降り来る言葉 LXIV
木立 悟
青空と階段と金属と食卓
曇と無音と螺旋と無音
霧の上に描かれた霧が
さらなる霧へと溶けてゆく夜
廃れたものは何も言わず
土と枝の奥にそびえ
光が光をはずれる径
うなじも背もかすむ径
濡れた景が
どこまでも遠くを近くに引き寄せ
さらに暗い夜にあっても
あざやかにあざやかに打ち寄せている
緑が緑を落としたところ
夜を歩く夜の群れ
明け方を未明を信じることなく
ただ肌色の壁に沿って
持ち上がりながら沈みながら
視線は白へ鳥へ傾く
はばたきの失い
うたへ傾く
壁も土も音も砕け
水の無い川をころげゆく
暮れより広い黒の風
夜を南へ押しもどす
蒼く立ち上がり
崩れ また起き上がり
見えないものの影を連れ
まぶしく荒れた冬の径をゆく
終わりは淡く
やまないしずく
壁と扉には誰も触れない
撃たれた鳥が歌いだすから
曇の梯子を落ちるものの明滅
片手に片目に
ことばをことばを
握りしめながら
水なのか
水でないのか分からぬものに身をかがめ
鳥は小さな音と色を浴び
羽を吸い 羽を吐いている
荒れ地になろうとする径に
陽は刺さり 血は流れ
それでも荒れ地へゆく径に
青も毒もついてゆく
光のうろこの夜を歩き
霧にも鳥にもなりながら
うたは冬の足跡を追い
径に花を置いてゆく
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