眠り姫の薔薇
梅昆布茶

しどけない午睡から醒めやらぬ眠り姫は
一人寝の孤舟の岸辺で戦の終わる日を待ち続けて
夕陽をぼんやりと眺めていた

眺望のよい塔のうえに幽閉された魂は自分の捕虜としての価値も知らずに
幼い時にいつも夢見た童話を思いかえしていた

幸福な王子と王女の話だ

もうフランス革命の足音が聞こえていた
もう人質としての婚姻の時代ではないのだが
眠り姫の母国は国の敵であったのだ

塔は高く風が吹き渡る原野を見渡すことができたが

かのじょの見ているものは風の匂いだった

風は歴史や国を孕んで人を翻弄するだろう
すでに彼女の涙は乾いたがそれも風の優しさかもしれない
薔薇の庭園は彼女のこころのなかに

幸福な王子 と王女 は何時の間にか壮麗な
忘却という 宮殿 を手をとりあって散策するのだが

ふたりの言葉は金のしづく
ふたりの涙は銀のしづく

魚の涙のようにしづかに海に流れるのかもしれないのだ

遠くの声が聞こえる
それは時間という回廊のなか
君が叫んだ愛かもしれないのだが

切れ切れになったそれはいまでも
回廊に谺しているのだろうか

眠り姫の夢はときおり途切れるのだがそれは

眠りではない新しい夢を
見つけた瞬間なのかもしれない

僕たちの進路は何で裏打ちされるのか

それは愛とも歴史とも呼べるもの

眠り姫の夢のなかで

自由を代弁していただろうものを僕たちが

ある想いと信じているからなのかもしれないのだ















自由詩 眠り姫の薔薇 Copyright 梅昆布茶 2013-03-14 23:02:28
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