県道素寒ピオーネ
平瀬たかのり

 「準備中」看板ガチコン音も高くさしこめば
 なんだこれ風はいつもよりも強く激しく午前四時
 ガードレールの交通安全幟ばたたたた
 何だってそんな風がひょうひゅう
 どうしたって高ぶらせる荒ぶらせるぜマイハート
 これがウワサの爆弾低気圧ってか
 わはははははようしここはいっちょう
 県道ど真ん中
 ダッシュ!
 おお、走るのなんて何年ぶり
 ふふふ、まるで矢吹丈が駆けてきそうな風ダッシュ!
 ダッシュ、ダ、ダッシュ、ダ、ダ、ダ、ダッシュだってば!
 ぜはぜは、ぜはぜは
 ストップ
 ふうふうふう
 ファイティングポーズ

(今日は保険代を収めにゃならんセゾンの払いは十六日一万いくらだったけか電話代はえっと五千円ちょっとでも来月からプロバイダ料がかかってきやがる固定資産税は分割払いにしたからちょっとは楽になったなだいたい水道代が高すぎなんだよゴミの分別細かくする前にやることあるだろ冬は光熱費が半端じゃねえなあまったく灯油にご奉公だよどこまで上がるのガソリン代スカパーのJリーグセットは残念ながら解約だよきっといつか復活させてやるおーバモセレッソーそういや明日くらいもう米買わないと今月は弁当箱代の払いもあるしなしかし米と弁当箱の消費が早くなってるのに何で利益が出ないのか謎だねえ聞け万国の労働者ーってそこしか知らないはい仕入れと払いと税金のために働いております)
 
 でたらめフックいんちきアッパーへなちょこストレート
 ボクシングジムに通わなかったのは人生における悔いの一つだ
 ノックアウトされたボクサーを抱きしめて
 レフェリーは意識を確かめるために残酷に問うという
 「君は今どこにいる?」
 ぼくが今いる素寒貧の路上
 ふいに浮かぶもう会えない人の顔

 ははは、まったく何やってるんだかな
 振り向けば斜光シートの「準備中」
 だから準備中なんだよとっとと戻れよ
 息が切れる脚が震える
 いつまでたってもオリオン座しか判らないままの空
 ダッシュ――いやいやもう無理
 でも、でももう一回
 二〇一二年四月三日
 俺、ファイティングポーズ


自由詩 県道素寒ピオーネ Copyright 平瀬たかのり 2013-03-14 16:12:48
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