野良ペンヶ浜
平瀬たかのり

 そう遠くない昔
 高知県の海岸には
 遠洋漁業で命を張ったお父やんたちが
 子どもの土産にと連れ去って帰った
 ペンギンが
 うろうろしていたそうだ
 すぐに飽きられ捨てられて
 浜に棲みつき野良となった
 ペンギンが

 フナムシがさごそ這いまわり
 ウミウシは紫色の液を噴き出す
 触手揺らめかせるイソギンチャクのとなりで
 フグが腹をふくらませている浦戸湾
 その浜を
 ペンギンどもが歩いていったのか
 ふてぶてしくもぶさいくに

 てちてちてちてちてちてち

 波打ち際たたずむ野良ペンギン
 ざんぶざんぶ、岩場から凪に飛び込む同胞たち
 短い首を大きく反らせば
 濃紺の背中にやわらかな陽ざしが光って
 振り下ろすくちばしに突き刺ささった
 うち上げられたばかりの
 ヒトデ

 はるか遠く南氷洋で
 氷が激しくぶつかりあっている


  (参照・西原理恵子『できるかな』〈ふるさと高知編〉)



自由詩 野良ペンヶ浜 Copyright 平瀬たかのり 2013-03-11 18:48:57
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