啓蟄 (けいちつ)
nonya


意識の地中に
閉じ込められた想いは
言葉になることも許されず
凍てついた時間の底で
膝を抱え込んでいた

想い出したように吹く
溜息によく似た風を頼りに
出口を探したこともあったが
意識の窓はすべて嵌め殺しで
扉は外側からしか
開かないようだった

闇と沈黙は少しずつ
想いを侵食していたが
想い出に変態するには
時間がまったく足りない
半ば諦めかけていた時に
それは突然起こった

意識の地表が
薄っすらと白み始め
鼓動によく似た振動が
何かを伝えたがっていた
新陳代謝に足を取られないように
細心の注意を払いながら
想いはゆっくりと歩を進めた
光に導かれるままに

出口はあった
想いは許されたのだ

温み始めた暖色の風に
思わず弛んだ口元から

ぽこっと

顔をのぞかせた想いは
華やいだ光の中へ
もそもそと泳ぎ出した

泳いでいるうちに
想いには色がつき
想いは景色になり
想いは季節になっていった

向こう岸の誰かの耳元に
泳ぎ着く頃には
想いはおそらく
言葉になっているだろう




自由詩 啓蟄 (けいちつ) Copyright nonya 2013-03-10 20:45:57
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