サンドパイプ
梅昆布茶

化石少年は砂岩の中にある海中生物の
痕跡に魅入られていた

数十万あるいは数百万年の時を経て
無名の海底生物の生きた証左が地の中の眠りから
主亡き痕跡という奇跡の造形のままよみがえる

それは僕たちの祖先であったかもしれないナメクジウオの
かなしい涙のあとあるいは

考古学という美学のほんの一端のささやかな
息継ぎなのかもしれない

ベスビオス火山で一瞬にして化石化したポンペイ市民の生活

僕たちはいまなんの堆積によって
その生きた形を
存在空間を証明できるのだろうか

それをいつだれが掘り出して
博物館の一隅にでも
展示してくれるのだろうか

すべての生体活動における
環境的抵抗因子に対する
生体の戦いの証が

生痕という考古学的気配に
すべての系統樹の樹液が溢れ出て
流れ込むそんな露出した砂岩の

かつて華やかだった生命圏の
風化したカサコソした痕跡という

サンドパイプという生命のひとつの歌の破片を

少年は宝物のようにきっと
掘り当てるのだろう





自由詩 サンドパイプ Copyright 梅昆布茶 2013-03-10 01:24:01
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