ぬりつぶし
ドクダミ五十号

木炭で描かれた下書きは

筆を誘導しないのだ

ぼんやりを乗せた画面に

確認としてあるだけだ

なぜ確認をなぞる必要がある


強調したい性的な欲求は

しなやかに伸びる肢体を求め

木炭の其れを逸脱する


時に貧乏な絵描きは

新たな綿布を購入出来ず

肌に付けば烈火の痛みを伴う

安価な薬剤とパレットナイフで

削ぎ取るのだ乗せた己の思いを


手の甲に痛みが走る

削ぎ取られたものの怒りがそうする

絵描きは知っているなぜなのかを

残酷を己が成しているからだ


あらわれた木炭の下書きは

当然の様に現れて

ひとみから入り絵描きに問うだろう

私が消えないでのさばるのは

さぞかし憂う事であるとお考えか




絵描きは言葉に不自由だ

言葉を選ぶ機知とは無縁だ

一度も洗った事の無いパレットから

筆で答えをするばかり


そして不自由ながら一言

お前は幻だ


明かり取りの窓の外で降る

真白な雪で一度

塗り潰せたならなんと楽だろうと

アイボリー・ホワイトのチューブの頼りなさを

乱暴に放り込まれた木箱の中に見て

絵描きは醜い顔を一層醜く歪めて笑うのだった


自由詩 ぬりつぶし Copyright ドクダミ五十号 2013-02-19 18:08:56
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