ぬりつぶし
ドクダミ五十号
木炭で描かれた下書きは
筆を誘導しないのだ
ぼんやりを乗せた画面に
確認としてあるだけだ
なぜ確認をなぞる必要がある
強調したい性的な欲求は
しなやかに伸びる肢体を求め
木炭の其れを逸脱する
時に貧乏な絵描きは
新たな綿布を購入出来ず
肌に付けば烈火の痛みを伴う
安価な薬剤とパレットナイフで
削ぎ取るのだ乗せた己の思いを
手の甲に痛みが走る
削ぎ取られたものの怒りがそうする
絵描きは知っているなぜなのかを
残酷を己が成しているからだ
あらわれた木炭の下書きは
当然の様に現れて
ひとみから入り絵描きに問うだろう
私が消えないでのさばるのは
さぞかし憂う事であるとお考えか
と
絵描きは言葉に不自由だ
言葉を選ぶ機知とは無縁だ
一度も洗った事の無いパレットから
筆で答えをするばかり
そして不自由ながら一言
お前は幻だ
明かり取りの窓の外で降る
真白な雪で一度
塗り潰せたならなんと楽だろうと
アイボリー・ホワイトのチューブの頼りなさを
乱暴に放り込まれた木箱の中に見て
絵描きは醜い顔を一層醜く歪めて笑うのだった