ニシヒガシと親子
はるな

ニシヒガシの親子は木の根っこにつかまってぶるぶると震えていました。
寒い、寒いよるです。
ニシヒガシの親子の薄灰色の毛は、どおん、という大砲の音が、木の根をつたってくるたびにかすかに立ち上がります。本来であれば、ニシヒガシの毛は青いくらいにまっ白なのですが、ここはそのためにはあまりに寒く、また、親子は飢えていました。

どおん、という、大砲の音は、山のしたの親子の耳にも、もちろん届いていました。

そのとき、親子はもう、最後のスープを飲み干してしまって、布きれにくるまって寝ていました。
ま上には、砂糖壺をけとばしたような、さらさらとした星空です。それはちょうど、ニシヒガシのほんらいの毛なみのようにひかって、風のふくたびにきらきらとまたたいていました。

どおん、という大砲の音は、きっとなにかの合図にちがいありませんでした。けれども、子どもたちは、それが何の合図であるかはわからなかったのです。そのうすっぺらい胸のうちに、不安とも期待ともつかぬ予感を、どおん、という揺れのおとに合わせて刻むだけでした。


「かあさん」
布きれにくるまった子どもは言いました、
「あんなに星があるのだから、ぼくはいつかあのいちばんひかっているやつをかあさんの胸にかざってあげる。」
母親はなにも言えませんでした、やっぱりここはあまりに寒く、それに二人とも、最後のスープを飲み干してしまったあとでしたから。
「かあさん」
子どもはもう一度いいました、
「かあさんぼくたちが、ニシヒガシのうちでいちばん東に住むニシヒガシだったら、どんなにかしあわせだっただろうね」

母親は、やっぱりなにも言えませんでした。なにか言うには、もう母親はつめたくなりすぎていました。うれしさとも、さびしさともつかない気持がおそってきて、いまにも粉々にくだけてしまいそうでもありました。
母親は、布きれにくるまった子どもをひきよせ、ちからいっぱい(と言っても、そのちからは、「いっぱい」というのはあまりにか弱すぎました、それをみていたのはお星さまだけだったのです)だきしめました。

かあさん、と、子どもは、もう言いませんでしたけれども、母親の耳には、子どものこえが、いつまでも、いつまでも、ふりつもるようにやさしく響くのです。



散文(批評随筆小説等) ニシヒガシと親子 Copyright はるな 2013-02-16 17:56:32
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