涙の落ちるところ
sample

期待はずれ。
面白くもなんともない映画を観た
その帰りに目的もなくコンビニに立ち寄り
週刊誌を気ままにめくっていたら
偶然、店内の有線放送から流れてきた音楽に
耳を傾けてしまうと
その音楽はその時の気分にとてもゆっくりと重なって
余すところなくやさしく調和し溶け込んでいった。

普段、J-POPも歌謡曲も聞かないし
興味すらなかったはずなのに
その時、聞いた音楽はどう足掻いても
回避できないほど私の心をつかんでしまった。
もう、そうなるとその音楽のリズムとメロディ
歌声に酔い痴れてしまい
雑誌の文字を追うことなんてできず
私は雨に濡れた薄手のシャツが
皮膚にぴったりと張り付いているみたいに
感傷的な気分を身にまとった
安いドラマの主人公になってしまう。

なんだか、鼻の奥がツンとして
目頭に熱いものをかんじると
私はコンビニを抜け出して自転車にまたがる。
涙の落ちるところはここじゃない。
こんなところじゃない。そう信じて
信じても、涙腺が言うことを聞かなくて
もうすこし、自転車の速度をあげて
もうすこしの辛抱だと言って交差点。

赤信号。交錯する光がすこしぼやけはじめている。
立ち止まる人々が顔をあげたら
ペダルをまた漕ぎだして
あと、何度か曲がり角を過ぎて
坂道を越えたら私の家があって
ブレーキが悲鳴をあげて、犬がワンと鳴いて
玄関を開けて、鍵も閉めずに靴を脱ぎ散らかしたら
そこが涙の落ちるところにしよう。

街中どこもかしこも音楽を垂れ流しているけれど
不意に急所を突くような
今後、名曲になりそうな歌を流さないで欲しい
ただただBGMであってほしい。
こんな辛くてくだらない思いをする人もいるから。


自由詩 涙の落ちるところ Copyright sample 2013-02-16 04:33:49
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