うた
月形半分子
(春)
君よ、春にあいましょう
ひときわ人の旅は終わらないから
つばめよ、旅人たちよ
春にあいましょう
私が春であるように、君が春であるのだから
ふたりあえた季節に花が咲けばそれでいい
旅人よ、旅人たちよ
その旅がなんだったのか
あまたの辛苦も悲しみも
美しいばかりの浪漫も
君の旅を私の旅を
この満開の桜の下で語ろう
そしてまたこの満開の桜散るなかで別れよう
満ち足りて花の下に立つ旅人よ
生き溺れて力なく花の下にうずくまる旅人よ
それでも花に間に合った君よ 私よ
散れども散れども咲く花のように
君と私が出会う時に、花があればそれでいい
(夏)
夏は永遠の季節
それは動かぬ太陽の支配する国
そこには私たち太陽の子らが住む
太陽の子らはよく笑う
「だって幸せなんだもの」
太陽の子らはよく泣く
「だって死ぬほど辛いんだもの」
太陽の子らはよく耐える
「だってみんなのためだもの」
君が今日笑うその声も
君が明日流すその涙も
太陽の国にあれば
それは千の、万の、永遠のひまわり
太陽が大地を照らし続けるかぎり
太陽の国にあっては
それこそが法、それこそが祭
(秋)
秋は君も待ち遠しい
秋は君が待ち遠しい
君はもう食しただろうか
あの一房の葡萄を
君、早く食さなければいけないよ
何故なら秋はあの甘い一房の葡萄
待ち遠しかったものが
長くその身にとどまるとは限らないのだから
君よ、私よ
豊かな実り以上に素晴らしいものは何?
豊かなその香り?豊かなその甘さ?
思案してるうちにほら
秋が待ち切れず君に甘く口づける
君はなんて秋に愛されるがままなんだろう
秋が思う存分君に口づけしている干し草のなか
私たちも早く葡萄を食さなければ
秋がいってしまわぬうちに
秋が去らぬ国など物語のなかにさえないのだから
(冬)
冬は眠る者をおこさない
その雪は子守唄
冬は幸せな者を幸いに閉じ込める
その雪はゆりかご
冬は嘆く者に時を与える
その雪は孤独
暖かな暖炉の炉辺には
湯気のたつスープに厚切りの肉の焼ける音
君も私もそんな故郷の夢をみる
音を立てて踏む霜、凍った薪を拾う裏山の朝
冷たい大気から故郷の匂いをかぎわける時
オオカミの遠吠えが聞こえるだろう
それを私たちはまるで自分の心のように夢に聞く
冬は神さまのように私たちに教える
あらゆる動物には帰る場所が必要なのだと
冬は神さまのように私たちのそばにいる
いつも、いつも
たかなる連峰のその頂上から
雪の絶えることがないように
冬だけが神さまのように
遠ざかることはあっても消えることがない
冬は言う。自分こそが帰る家だと