桃色の泡を吐き出す世界ではみどりの魚も赤く熟した
木屋 亞万
あの人が舐めるナイフの冷たさを頬で感じた(栗山千明)
実感がないというより年末の実感自体実在すんの?
泣き止めば殺さずにすむ恋心みどりの魚も赤く熟した
たましいになってしまえばたましいのさけびくらいはすぐにできるさ
取り返すことのできないものばかり油まみれの胃が溶けていく
唱えては「明日があるさあすがある」今日をあきらめ明日にかける
死にたいと言ったお前の身代わりに死ぬ私から目を離すなよ
昨年にやり損なった大掃除今年中には終わらせたいね
眠ろうと目を閉じるたび五七五言葉が整列して笑ってる
遠くでは今日も赤子が泣いている犬は吠えるし猫は戦う
心臓の毛を剃ってから揉みしだく身体の端に血が通うまで
「そんなことないよ」を期待した卑下に笑顔で放つ「たぶん、そうだね」
どちらかというとどえむということとこいのやだらけのせなかちみどろ
みそしるをそしるあなたにみそめられしみをそしするみみにしみいる
ひらがなでかけばやさしくひびきますじゅうりんどれいきちくかんいん
身体から羽根がぱらぱら抜け落ちて「冬だからよ」と痩せた背が言う
この広い宇宙で光る星のうち一つくらいはイカだと思う
ふわんってなるスカートで不安気に顔を出してるお尻について
人間が互いに食べあう真似をするキスと呼ばれる求愛行動
繰り返し毎晩思うすこやかに眠ることこそ生きるすべてだ
スピンアトップ急いで回るコマは立ついつかは春で口を漱ぐさ
ゆらゆらと空気が流れていることと半透明の影とストーブ
さらさらのさら地になってしまったよきおくをけされた気ぶんになるね
髪の毛がそっと私の盾になる雲に隠れた月は見えない
僕が見た途端に動くトトトトと正確を期す電波時計か
酒漬けの葡萄をつかむ指先の光沢を増す爪の横顔
蜜と唾出会い溶け合う心地まで舌からじとり沁みる慾望
生きたまま消化器という魔窟から抜け出た乳酸菌は語る
気を急いて剥いだことへの後悔と生ぬるい汁と透明なゴミ
雌豚が褒め言葉へと変わるほど立派な豚を育てるお仕事
ぎぃぎぃと頭がなって髪の毛が開かない扉の重さで締まる
もう明日が来ませんように何度でも祈るさ自我は自壊したから
理不尽な社会という名の急行を降ります鈍く行きたいのです
愛情が大事な材料だったことファーストフードにまみれて気付く
駅にまだ僕だけにわかる恋の香が残っています鼻腔泣きます
繋がって泳ぐ魚に降る雨と桃色を吐く墨絵の窓辺
雑貨屋で売ってるタイプの小物ですときどき小心者になります
「舐めるのがやめられなくて…」ぺろぺろと上白糖を舐めていた君