比喩
ソリッド町子
昔私は直線だったの
――そう。
昔二人は交わらない二本の直線だった
或いは一つの茎から分かれた二つの花
片方は恒星で、もう片方は流星だった
昔あなたはピアノの鍵盤の一つだった
そして昔私は屋根の上で死んだ蜂だった
或いは私は直線だった
雨が降ると
窓を流れる水のひとつひとつのなかに
私はあらゆる可能性を見た
あるべきものとなりえない全てを見ていた
――安心しておやすみ。
私は夢を見るだろう
その夢のなかのすべてに、私はあなたを見る
私たちがなりえなかった全てのものを見る
私たちだったはずの全てのもの
あなたはおそらく
私の涙の一粒にたくさんの光を見る
それは
分裂し、揺れて、ゆがみ、潰れて、最後にはソーダの泡のように消えてなくなる
その前に
夢の中でもいいから会いに来てほしい
私がまた直線になってしまう前に
あらゆる可能性を喪う前に
誰かが私を探しにくる前に
――安心しておやすみ。
夜が私の目をふさぐ、私は起きたまま夢を見るだろう
あらゆるすべてのあなたの夢を見る