ピアニスト・シンデレラ。
元親 ミッド

1月も終わりのとある平日。

かわいらしい小さなカフェに集う人々があった。



カフェに置いてある品々は、その多くが手作りのようで

ペンキ塗りの壁には、楽しげな手書きのイラスト、絵画があった。

足元には、火鉢。その中で炭がささやく光を放っている。

カフェには、そこかしこに、ノスタルジィとぬくもりが浮遊していた。



彼らは、初めのうちは、一個のシュークリームをつつき、

ハーブティーだったり、ジンジャーエールだったりで喉を潤しながら

おしゃべりを楽しんでいた。

久々に会う、友達との再会を喜んでいるようだった。



そのうち、1人の女性が立ちあがり

カフェの奥に置いてあるピアノの前の椅子に座ると

静かにピアノの演奏を始めた。

小さなカフェが、やさしい灯りと、

ピアノの美しいうた声で満たされて

彼らは、うっとりとそのメロディに耳を傾ける。



その後もピアニストたちは、代わる代わる演奏を続けた。

東京から、わざわざ来た者もあった。

普段は、病院でお医者さんをしている者もあった。

ただ、聞きにきているだけの者もあった。

だけど、みな一様に、ピアノが好きな人たちであった。



やがて、世界は音楽のスコールに見舞われて

ピアニストたちは、ピアノを演奏してはいなかった。

僕は見た。

音楽のスコールの中で、ピアノとダンスを踊っている彼らを。



激しい踊り、静かな踊り、楽しい踊り、淋しい踊り、

きれいに塗られた黒いネイル、細くて白い指をとり、

彼らはその晩、ピアノとダンスを踊り続けた。

時間は、無限だと思えるほどに。



やがて、シンデレラの魔法は解けて、

そうして名残惜しそうに、

彼らは日常へと帰っていった。

テーブルに残されたグラスが

落し物のガラスのハイヒールのように、寂しそうだった。



小さな、かわいいカフェの片隅で

ピアノは、やすらかな眠りに着くのだ。

夢の中で彼らを待ち続けながら。

再び、あのスコールの中で、

踊り狂うことを夢に見ながら。


自由詩 ピアニスト・シンデレラ。 Copyright 元親 ミッド 2013-01-31 16:34:57
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