白い糸くずの群れ。
元親 ミッド

ガラスいっぱいに広がる黒に、

顔を寄せすぎるほどよせて、おさなごがさけんだ。



ねぇとおちゃん!

なんだい、坊?



問いかけられた髭面の男は

グラスの琥珀を半分ほど飲みほして

おさなごの方を見た。



とおちゃん、あれなんなん?

あれ?



男が窓の外に目をやると

深い暗闇のところどころで

点々と生き残った街灯の下に

何やら白い、短い糸くずのようなものが

群れたり寄ったりしているのが見えた。



それをしばらく眺めていると

おさなごは、男の方を振り返り

あのしろいのなんなん?と、

再び男に問うのだった。



坊、ありゃぁ愛だよ。



男はそう答えると、グラスに残った

琥珀をぐっとあおった。

おさなごは、ふぅん。と言って

ものめずらしそうに目を輝かせて

暗闇に踊る、愛を眺めるのだった。



氷のように冷たい窓ガラスが

おさなごの鼻先をチクリとさして

おさなごが慌てて窓ガラスからおののくと

吐息でスリガラスのように白く濁った円が

少しづつ小さくしぼんで剥がれ落ちてしまった。



ねぇ、とおちゃん。

なんだい、坊?



あの、しろいあいは、ここにしかふらないの?

そうだなぁ、坊。

白い愛は、寒いところでしか降らねぇなぁ。



でも、白くはねぇが、俺たちの街にだって

愛は降るんだぜ、坊。

ふぅん。



おさなごは目をこすってちょっと眠たそうだった。

男のそばまで寄ってきて、すとんと座ると

そのままコロンと男の脇でうずくまった。

男は、そばにあった毛布をおさなごにそっとかけ

ぽんぽんと、おさなごのあたまを撫でるのだった。

それでおさなごは安心したのか

ちいさな寝息をたてていた。



男は、おさなごのそばで

グラスに琥珀を注ぎ入れ

それを黙って、口に運んだ。


自由詩 白い糸くずの群れ。 Copyright 元親 ミッド 2013-01-24 00:34:50
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