夕暮れバス
ナラ・ケイ

眼を開けると
ほかに乗客はいなかった

確かめたはずが
行き先を思い出せない

どこから乗り
どれだけ乗っているのかも

東側の山のふもとだけ
西日が射し込んで赤い

バスは進み
夜がおりはじめる

眼中に残された赤が
額と頬に映り

熱となって
胸にたまる

熱を逃がせないことだけは
わかっている

座席と振動は古びて
体になじんでいる

行き先を忘れたまま
乗り続けてはいけない

わたしは振動をふりはらって
バスを降りることに決めた

日が落ちきる前に
熱がわたしを動かしてくれるうちに

もういちど行き先を
確かめるために


自由詩 夕暮れバス Copyright ナラ・ケイ 2013-01-22 14:16:59
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