詩2編
月形半分子

薬缶の口から湯気ポッポ


ノドグロの口から日本海の匂いがまだ消えないうちにと
料亭の女将の口から少し早めの夜が始まる
けれど日本の財布の口からはわずかな小銭しかでない
だからみんな、みんな、みんな
みんなの薬缶の口から湯気ポッポ
カップヌードルの蓋の上で今日も三分待つよ

そうして夜更けに、畑に並ぶ白菜の口から霜がおりはじめ
その明け方に女将が帰り道に口からプカリと煙草をふかす
そうして真っ白い霜のなか、みんなの朝が始まれば
みんなの薬缶の口から湯気ポッポ
みんなみんなポッポッとあくびする
なんかいいことないかしら、と独りの口がつぶいた
ポッポッポッポッ朝が蒸気のように空までいかずに消えていく


「わたくし、打たれれば打たれるほど出る杭ですが、」


建築現場。鉄、木、石、紙、あ、コンクリート。あ、ガラス。あ、ガラス。
上から物凄い機材で鉄の杭が打たれていく。重い。重い。
空に虹が出るように、地面で割れたガラスが乱反射している。けれど誰もそれには気づかない。
杭を打つのにみんな、必死だ。杭もたくましい。たくましい。
わたくし、打たれれば打たれるほど出る杭ですが、それが何か?
杭が打たれるたびにそんな生意気な口を聞く、そんな想像をしてみる。
建築現場では人の声がよく聞こえる。上からふってくる人の声はちょっと不思議だ。
まるで、鉄が、石が、木が、紙が、会話しているみたいだ。あ、ガラス。あ、ガラス。




自由詩 詩2編 Copyright 月形半分子 2013-01-22 12:11:02
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