サーカスのおはなし
……とある蛙
年に一度お楽しみ
村の外れの野っ原に
大きなテントが出現し、
チンドン屋が触れ回る
さぁさサーカスが始まるよぅ
このサーカスは面白いよぅ
そこいらのサーカスとはチと違う
空中ブランコはもちろんのこと
ライオンの火の輪くぐりに
馬の曲芸
象だって片足で曲芸だ
それに綺麗なねぇさんが
梯の上で逆立ちだ
玉回しに玉乗り
ナイフ投げに猿回し
もちろんピエロだって大活躍だ
さぁ
そんなサーカス見たくはないか
そんなサーカス見たいよなぁ
そんなサーカス見なきゃ損だよ
ジンタにのって触れ回る
小さな僕は
チンドン屋の後ついて
チンドン屋の後ついて
ビラを貰って走って帰る
かぁちゃん これ見て
サーカスだよ
前も見たよね
サーカスだよ
ビラをかぁちゃんに突き付けて
見に行ったら何でもするよ
ずっと早起きするし
おねしょもしない
もちろんかぁちゃんの手伝いは何でもする。
水だって汲んでくるし、
洗濯物を干し場まで持ってゆく
だからお願い連れて行って
僕はもちろん行きたくて
行きたくて行きたくて
行きたくて行きたくて
悲しそうな顔をしたかぁちゃんは
行かせてやりたいけど
金がないんだよ
かぁちゃんは済まなそうに僕に謝る
でも
諦めきれずに翌朝早く
学校に行く途中
テントの近くで
ぶらぶらぶらぶら
テントの隙間を除いたり
天幕の前で
ぶらぶらぶらぶら
坊や今晩見に来るのか
変な服着たじいさんが
僕を見つけて尋ねるのだ
おじいさんはピエロだね
僕サーカス好きだから
去年までいつも見ていたから
ピエロの服は知っているよ
父ちゃんがいたときはいつも見ていた。
父ちゃんが東京へ行ってからも
いつもいつも見ていたから
でもいま貧乏だから
ゆけないの
でも今貧乏だから
ゆけないの
じいさん少し考えて
それから僕に向かって
そう
ピエロのじいさん こういった
そうだおじいちゃんが
持っている券をあげようか
一枚だけだけど一人でくるかい?
きっと今晩来るんだよ
僕はものすごくうれしかった
券を持って学校に走る
遅刻して立たされても全然平気だ
今晩サーカスが見られるんだ
休み時間はサーカスのこと
教室中そんな話で持ちきりだ。
僕も行けるんだ。
みんなと一緒に行けるんだ
きっとピエロのおじいちゃん
玉に乗ったり転んだり
サーカスで一番の人気者さ
学校から帰ってかぁちゃんに
券を貰ったから行っていいと
しがみついて話したら
いいよ行っておいで
と言われたので
その晩
あの大きなテントに行ったんだ
ナイフ投げや空中ブランコ
象の曲芸が終わった頃
あのピエロのじいさんが
大玉に乗ってやってきた
ピエロはいつも花形で
今日も、泣いたり 笑ったり
彼の顔 いつも化粧は涙顔
今日も、泣いたり、笑ったり
でもいつも失敗ドジばかり
それを見ながら観客は
「あいつ莫迦だなぁ」
「まぬけだなぁ」
「ホントにおかしな動きだなぁ」
それでもたまにとんぼを切ると
僕らはみんなは大はしゃぎ
ところが
ピエロのじいさんが
大玉からすべって倒れたら
そのまま動かなくなってしまった
それを見てまた大笑い
涙を流して大笑い
それでも
ピエロのじいさんは
そのまま仰向けで動かない
そのうち客席がざわついて
突然サーカスは終わってしまった。
翌日テントの近くを
うろうろと
かたづけものをしている
おねぇさん
あのおじいちゃんどうしたの
ピエロのおじいちゃんどうしたの
おねぇさんは涙をにじませて
もうピエロさんはやめてしまったの
もうピエロさんはいなくなったの
坊やまた来るからね
半泣きのおねぇさんは手を振った
でもそれっきり
サーカスは来なかった
僕の父さんと同じで来なかった
サーカスはそれっきり来なかった
もう二度と来なかった
父さんと一緒
とうさんと