晩秋・他
Lucy


   晩秋

すでにざっくりと強剪定された太い枝の切り口を
寒空にさらす街路樹
いつも
心の底ではあてどなく遠いあしたを待ち侘びていた


   冬の雲

空一面に
狼の顔があらわれる
吹雪の底で
一晩中吠える

生温かく知覚される
凍死寸前のいびつな眠りを
打ちすえる


   残照

生まれて初めて海に沈む夕陽を見た夏
恋をした
夕日が沈みきってからも
暗い海へ
雲が照り返し続ける色を
胸に焼き付け
あれから
あなたを追いかけても
探し当てても
抱き締めても
海に沈んでしまった夕陽は
二度と
姿をあらわさない


   二月

飛びたったように見えたのは
薄雲漂う空のなか
ゆっくりと上昇し夕陽の手前でゆるやかに
向きを変える時
透き通る輪郭をひからせ
気流に細い首を延べ
春に背を向けて渡る
何百羽もの透明な鳥の群れ
雲はしだいに夕陽を遮り
しずかに羽毛が降り落ちてくる


   断片

かけらのまま
ただわたしとして完結する孤独


   幼年

みんながうまく避ける小石に
きまってつまずき
あのこが鬼だと影踏み鬼は夜まで続く
ゆうらり駆け出すはだしのかかとにふいと背いて
踏まれた影は
いびつにちぎれていったので
あのこはだんだん口べたになる
新月の夕闇せまる春まぢか
村はずれの川へたどり着き
橋もないところを
だまって目を開けて跳ぶ
ひっそりと弧を描き血の乾かない
ひざの擦り傷の淋しいかたち

夜の背中に爪たて
くっきりと
せめて刻みつけたくて


   空

カモメもあれほど高く飛ぶことがある
いっぱいに羽をひろげ静止したまま滑空する
深く透き通る水の奥
はるかな雲と
水面近くに漂う雲とが離れたままで交差する

小さく
遠く
カモメは
自分が魚だった日のことを思い出している






自由詩 晩秋・他 Copyright Lucy 2013-01-15 11:06:01
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