天使の声 
服部 剛

帰りの電車に揺られながら、頁を開いた 
一冊の本の中にいるドストエフスキーさんが 
(人生は絶望だ・・・)と語ったところで 
僕はぱたん、と本を閉じて、目を瞑る 

物語に描かれた父と幼子をおぶった母は 
一枚の絵画のように 
日々の貧しい坂道を夕焼け空へと上りゆく

(日々は希望か絶望か?)と僕は問い、耳を澄ませば
母の背から振り返り(キボウ)という幼子の声に  
心の中がぱっと明るくなったところで 
瞑っていた目は開き 
ドストエフスキーさんをそっと、鞄にしまった。 

我が家へ続くいつもの夜道を歩いて  
「ただいま」とドアを開く 
「おかえり」という妻に抱かれた 
人より染色体の一本多い周がふりむいて 
けたけた笑い、僕の目を見る 








自由詩 天使の声  Copyright 服部 剛 2013-01-14 22:28:58
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