歴史の外側
atsuchan69

スムーズに話そう、あいにくと私の前にいる逃げ出した夜は詩人で難聴気味だった
たとえば、私の友人であるアナトール・フランスの書いたやつを読んで
【隠された表】と【真実である裏】を交互に推測し、幾度でも検証を重ねて
古代ローマがユダヤから彼らの救い主を実に巧妙な手口で奪ってしまった話とかを‥‥
――判るまい。だからあえて改行する、
ついでに【行】も空ける

そもそも殆どの時代において神とは王であり、人民を直接支配していた
これに関連したことを話そうと思うのだが、ミハイル・ブルガーコフは知っているか? 
まあ、知らないとなると話がまわりくどくなるが、これは私のせいではない
ウルの神殿と神殿娼婦である巫女の話をショートカットしてもかなり憂鬱な羊羹じゃない予感が
私の脳裏をかすめたところでお前にはむろん関係のないことだからイイ気なもんだ
どうして黙って話を聞く側がお気楽で一生懸命に話す側がこんなにも気を配らなければならないのだ
私は命を削ってまで話すべき義務など持ち合わせていない、お前なんかに話したって一円にだってならない
あー、だんだんと腹が立ってきた
だから改行する、
ついでに【行】も空ける

面倒くさいので端折って話すが、私は悪魔のことを話そうとしているのだ
つまり征服された過去の時代の「王」であり「神」である「器」じゃなく「中身」としての‥‥
ミハイル・ブルガーコフは知らなくてもローリングストーンズは知っているだろう
たぶん例のあの歌なら聞いたことがあるはずだ、ようするに人類史と悪魔との関係なのだが
ミハイル・ブルガーコフの書いた小説が種本だから読めというよりも
エゼキエル書の記述から暗い行間を照らしつつ真実を探り当てた方が最善かもしれない
が、アホのお前にはけして判るまい。だからあえて改行する、
ついでに【行】も空ける

しかし聖書の記述には、人類を【外側】から覗いている目線が確かにある
エゼキエル書に描かれたツロの王とは、例のあの歌同様に人類史の一場面の登場人物である
悪魔が一時のあいだツロの王であったとしても歴史を覗く者からみれば人の世の栄光などほんの一瞬だ
それぞれの時代の最重要人物に憑依しつづける悪魔自身がそのことを十分承知している
時空をジャンプしながら、戦いつづける兵士や泣き叫ぶ子供たちを見る【外側】の眼差しに同情などなかった
かつてインドネシアで行われた愚行に等しく、乳飲み子を殺して尚その母親をレイプしても心に痛みなど覚えない
アメリカや欧州が核で殆ど消失しても平気だし、アホのお前らが何億匹野垂れ死んだってゼンゼン平気だ
むしろ例のあの歌みたくサンバのリズムで囃し立てて笑いながら「チョーいいね」と言ってやるぜ
俺は、人間じゃない。じゃあ何なんだよ、名前を言ってみろ、そいでもって泣いて【外側】の神さまに祈れよ
ずっとずっと昔から、聖書にはこの世の終わりが来るってちゃんと書いてあるだろが! 
信じても信じなくてもいい、そんなこととは関係なくお前たちは互いに殺しあって地獄へと堕ちてゆくのだ
ザマーミロ、だからあえて改行する、
ついでに【行】も空ける

さて歴史の外側には何があると思う? そこに愛があるとおもうかい? お嬢ちゃん
じつをいうと【外側】は、けして一つの世界ではなかった。歴史の外側にはまだ無限の可能性があったのだ
信じても信じなくてもいい、そこには小さなテーブルと椅子がある
テーブルの上には恐ろしく粗末な食事と人類史上稀に見る暖かな言葉が置かれていた
アホのお前は食事の後、テーブルからその言葉を大切そうに選んで両手で掬うと、さっそく声に出して言ってしまった
悪魔はその言葉を聞くと胸を掻き毟って苦しみ、「チョーいいね!」と叫んで生臭い煙とともにポンと消えた

さよなら。すべての呪いと屈辱と挫折、恐れと不安にみちた夜の数々。たった今から新しい朝がはじまる







自由詩 歴史の外側 Copyright atsuchan69 2013-01-10 21:22:22
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