越冬
たちばなまこと

結晶の白いシャワー
恩寵がふりむかせた光のはしご
大気圏からの使いは 一冬の住みかをさがす

意図しない早起きの終週の締めくくりには
水分を奪われてゆく洗い髪のはぐれ糸が
はんなりの追い風にそそのかされて 視界を蛇にする
(ほうら 乱れて 走れ と悪名高くも魅力的な天使が
 半透明の羽を ひとゆらぎさせる。)
清い香りがたちこめるコートの中に
封印していたはずの匂いがいる

私は迷子ではなくて
触手から逃れ 拾われたうさぎ
寂しくては死んでしまうという言い訳は
人肌が恋しいからとカーディガンを脱ぐのと同じ
触れられるためにビーズを刺せば
涙の星の川を泳いでくれそうな包容力が
吸いつく住みかを築けるのかも知れず
五割で流れを止めた川を はめない手袋に見て
かかとの低いブーツに 低い視野をあずけ
うたっていたのはうただった

(冬まみれになるゆく歳の背中に 追いつけそうにない。
 折れる直前の指で背骨をなぞれば ほどかれるだろうか。)

左の肩甲骨の内側の丘から 青い双葉が芽生えてからは
残暑の熱で時空を越えて 高い高い木に育んだ
うんと遅れて実った果実の 柑橘の
くす玉からこぼれたのは雪だった

春までの住みかをさがす
私は君たちのような妖精ではない
冷たく可憐な囁きの輪唱にまみれても
独りぼっち
あの台風がさらったポプラの跡地は
アスファルトと氷と圧雪に消えた
陽光にこぼされる君たちの眩しさが直球で毎朝
おはよう おはよう 降りつもる背中
恩寵よ春までは雪に変え 雲間からばらまいて
つかのまの住みかを見つけられるように
冷たい孤独の温度差を 埋められるように

(手を握られた哀願。削られてゆく身体。
 春には人と呼べるものがどれくらい 残っていられるのだろう。)


自由詩 越冬 Copyright たちばなまこと 2004-12-21 00:38:44
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