ティーカップ
和田カマリ
潰れたボーリング場の裏にある
公園のベンチでいちゃついていた
高校生のカップルを
ボコボコにしてやりました
男のほうは
口から血の泡を吹いて
小声でフガフガ言っていた
壊れたおもちゃみたいに
「お俺は悪うない・・俺は悪うない・・」
女のほうは俺に
オッパイを握りつぶされて
乳首から変な汁を出していた
声一つもあげられないで
(心の中)タスケテ!お母さん、お母さん
「ヨイショ!お母さんはいつも肩が凝っていたから、
俺はいつも一生懸命だったね。」
それから
どこをどう歩いたのか
気が付いたら誰かの家の
裏庭に据え付けられていた
古くて大きな洗濯機の前にいたんだ
シャブをばっちり決めた俺は
中に入りたくてしかたなかった
フタを開け片足ずつ突っ込んで
そのまま体育すわりをした
すうっと手を伸ばして
スタートのスイッチを押したら
ザーと水が出てきて
キシィーキシィー
右に左にちょっとずつ動き出した
・・・・・
「お前の母親は、一番しんどい時に逃げ出した。」
遊園地のティーカップの中で親戚のおばさんが言った
「弟だけが悪いんやない、あの女の所帯が粗すぎたんや。」
おばさんは続けた
「お前は渡さへん、うちら側の男やからな。」
優しげな曲に合わせて
ティーカップが滑るように動き始めた
だけどおばさんは
ひとっつもハンドルを切らないので
ティーカップは全然まわらないんだ
ドーン
洗濯槽が俺の重みに負けて
落ちてしまった
洗濯機はもう
うんともすんとも言わない
へへへ
お母さん
今頃どうしているかな
へへへ
べちょべちょだよ
へへへ
懐かしい
笑いながらずっと
頭にフタを載せたままで
洗濯槽から首だけを出して
裏庭の塀を見ていた
その時の俺はキレキレだったから
ざらついたブロックの表面を
細胞レベルまで見ることができていました