他者の相 (生体反応の設計)
乾 加津也

わたしにある
他者の相

他者は正月にもちを食い
他者はゆっくり風呂に入る
他者は身繕い
他者は出かけ
他者は恭しい
他者は賀し
他者は帰り
他者は脱ぐ

他者を脱ぐ

ひとり
するりと
きょうらんの裸に
自他共に区別の
顔をおとす
目よりも
先に

他者はテレビをつける
他者は助太刀いたす
他者はおう、頼むぞ
他者は本場のパエリアに舌鼓を打ち
他者はマジックの剣に刺しとおされ
他者は一塁にけん制球をほうる
他者は惜しみなく愛を奪い
他者はロッテンマイヤーであり
他者はお口の恋人であり
他者がラーメン屋の出前を頼むと
他者はまいど
他者はかっぽれ かっぽれ

他者は裏切るまえに報酬が約束され
他者は漁夫の利
他者は取り分を主張して激昂する
他者はフラッシュの中を囲まれて歩き
他者は容疑を否認する
(容疑を否認せず、犯行を否認せよ)
他者はお前には失うものなど何もないだろう
うそ
他者はそうかも
他者のなかに他者が紛れているらしいよウォーリーみたいに
ほんと
他者は取調録画をまき戻す



それはたぶん眩暈にがんじがらめの
ふかみどり

他者は不特定多数と特定された
(ほやほやの)野で
それなら他者は侵略の蝸牛になってしまえ
(雌雄同体は気持ちよかろう)



他者は忌引の書き順から蝶をつまみ出し
他者は吊るした骨格で即演奏(ジャムセッション)
他者は公立図書館のトイレに核融合炉を据え
他者はすべての道がローマに通ずるのを知る
他者は背中の痒い血を診せ
他者はカルテにロト6を差し挟む
他者はニライカナイに流行りのインフルエンザである

しようがないから
他者は他者の目の中の藁をとらせてください
そんな他者は他者とセクースし
他者はもはやまんざら他者でもない
種(しゅ)は他者が保存する
他者は宿帳が好き



他者は他者に □ 他者の財産を 司らせ
他者は他者に □ 他者の保険金を 支払わせる
他者は他者に □ 他者の死刑を 執行させ
他者は他者に □ 他者の胎児(たしゃ)を おろさせる

うませる(使役動詞)



夢精の排卵日は
コンディションが微妙
どことなく
「じぶん」のかたちに腸をねじって


自由詩 他者の相 (生体反応の設計) Copyright 乾 加津也 2012-12-25 21:22:24
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