方舟
高瀬

すべてゆめだったのよと
言えない朝がきて
わたしたちはまた方舟の残骸を
待つことになる
ひた隠す傷跡をごまかし
あといくつの痛みを抱けば
その海を渡れるのか

たくさんのことばで
ふやけた頭がくらくらと
目眩うような日々だ
夕暮れ時の窓辺に
去った雨の音を聴く

軋り音に奥歯を噛み締め
惰性の日々を飲みくだす
きりきりと痛む季節に
底溜りの澱を反芻したらば
肺のなかにまた雨が降る

犯していない罪を指折り数え
至らない過去に縋りつき
訪れない明日を探す
繰り返し
、繰り返し
窓は開け放したままで

薄曇りの空が
いつまでも晴れない
望んでも
ひとしきり雨が降ったら
花は育つと思った
のに
、そっと
小指を噛んだら
どこへ帰れるのか

戻れないところへ、わたし
いってしまいたいと
思う
、から
探さないで
無言の雨の先に
なにがあるのかを


自由詩 方舟 Copyright 高瀬 2012-12-23 06:29:53
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