夏八百屋
石田とわ


   大通りを一本奥へはいった
   ラーメン屋の先の三叉路の角っこに
   その八百屋はあるんだ
   狭い軒先に段ボールが並べられ
   曲がったキュウリや
   太さも大きさもまちまちな隠元が
   ほうり込まれてる
   段ボールの切れ端には
   マジックでその安い値段を
   大きく書いてあってさ
   八百屋の女主人のおしゃべりは絶え間なく
   そのごちゃごちゃした店で
   育ったカボチャみたいなんだ
   この前もちょっとピーマンを買いに行ったら
   帰りにはなぜかその日採れたばかりという
   キュウリを二本も買わされていた
   売り物にならないいびつなトマトが
   おまけでついたけどね
   あの店の野菜たちがスーパーのそれより
   おいしく感じられるのはえこひいきだろうか
   色も形も見栄えはしない
   けれどあの不揃い加減がたのしいんだ
   一度あの八百屋に行ってみるといい
   きっと手ぶらじゃ帰れない
   三叉路の角っこの軒先の段ボールが目印さ
   そこにはいびつでただしい夏がほうり込まれている








    


自由詩 夏八百屋 Copyright 石田とわ 2012-12-09 21:40:32
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