存在と錯誤
ただのみきや
友よ 教えてくれ
いったい何処へ行くのだろう
君とは長い付き合いだ
離れてはいても仲間たちと繋がり合っていた
私は決して孤独ではなかったが
すぐ側にいた君と親しくなるのに時間はかからなかった
柵を隔てて君は公園 私は歩道に立っていた
来る日も来る日も 人や車 鳥や雲 全てのものが
時の流れに押し流されて目まぐるしく動いては消えて行く
ただ私たちだけが同じ場所に立ったまま
互いの影がぐるりと地上を巡るのを
のんびりと語らいながら見送ったものだ
私たちはあれこれと話をしたね
二人は似てはいても明らかに違っていた
君には枝があり季節に応じて葉の色が変わったり落ちたりまた生えたり
私は真っ直ぐ滑らかで色も形も変わらなかった
君のまわりには鳥や虫が心地良く憩い
時にはこどもたちが歓声を上げながらまわりを走り回っていたね
私のまわりはただ足早に通り過ぎるだけだった
君は鳥たちと仲が良かったけど
私にはフンをかける厄介者でしかなかったよ
ある日 君は互いの違いについてこう言った
「僕は神によって造られたものだ
神は大きなシステムの大事な一部として僕を造った
しかし君は人間によって造られたものだ
人間は人間の為だけのシステムの一部として君を造ったんだよ
神と人間は似てはいるけど全く違う存在なんだ 」
その日もいつものように影が巡り日は暮れて行った
だが 夜にこっそりと張られる違法な張り紙みたいに
君の言葉はいつまでも私の芯から離れなかった
以来君のことを心のどこかで憎くらしくなったんだ
ああ風が吹く 風が君を通りすぎる時 大勢の人が囁き合うようだね
だが風が私の電線で切られると男でも女でもない見えない誰かの慟哭が聞こえてくる
それがどんなに疎ましかろうと まるで自分の冷たい芯からこみ上げてくるかのように
だからある日突然人間たちが君の枝を切り落とし
君を低くした時には内心いい気分だったよ
君を見下しては優しい言葉をかけ
私に見えている景色を知らせてあげたものだ
「君 知っているかい
自動車は人間が中に入って動かしているんだよ なのにね
人間は自動車とぶつかるとそれっきり動かなくなるんだ 」
「ねえ 知っているかい
人間は神が造った空の星よりも もっと明るい星で夜道を照らすんだよ
私の仲間にはその星を身に着けている奴もいるんだ 」
君はそんな私の言葉をただ黙って聞いていたね
その寂しげな微笑みは今も変わらない
ねえ君 教えてくれないか
私はなぜトラックの荷台に寝かされているのだろう
私は何処へ運ばれるのだろうか
私は捨てられるのか
離れていても繋がっていると思っていた仲間たちも
皆一緒に寝かされているが
みんな私と寸分違わない姿なのはどういう訳なんだ
いったい 私は何なのだ
教えてくれ
私は死ぬのか
用が無くなったから殺されるのか
いったい死んだら私はどうなるんだろう
君はいつか言っていただろう
神は天国を造ったって
教えてくれ 人間は天国を造らなかったのか
お願いだ教えてくれよ
不安でたまらないんだ
ああトラックが動き出す
ねえ君何とか言ってくれよ
なんでそんな悲しそうな顔で見つめるんだよ
「さようなら」なんて言わないでくれよ
嫌だよ何処へも行きたくないよ
誰か助けてくれよ
死にたくない
死にたくないんだよ