アリアドネ
多紀



アリアドネは悟った

彼はもうこの迷宮から
二度と帰ってこない



「きっと、君のところに戻ってくるよ」


そう言った貴方の瞳の
絶望の色

私は気付きました


貴方は帰ってこない
貴方は世界を放棄した


そしてその瞬間私は
見棄てられたのだと


貴方は迷宮の中へ
旅立ったのだ

この世界の重荷から
開放されるため

自分自身さえ
放棄するため



彼は迷宮の中で
怪物と戦ったのか

そして喰われたのか


いいえ
彼自身が怪物と
なってしまったのか



アリアドネは決意した
私も迷宮へ入ろう

何の為に!?
私は見棄てられた女
なのだ!!


だが行こう
もう何も怖くない

せめて…私が
私だけが
彼が生きた証人と
なるのだ



迷宮へ降りてゆく
彼の孤独が深くなる



私は何をしているのか!?
彼の死骸を抱きたいのか
怪物になった
彼に喰われたいのか

どちらでも良い

私が…私だけが
彼の生きた証人となるのだ

迷宮へ降りてゆく
彼の中心地へ


彼の魂は
果ても無い闇


こんなに寂しい場所に
独りぼっちで
あのひとは
居るのか




探しにゆこう

何も怖くない


ただ
見付けるのだ
彼の孤独と人生を




そして知るのだ
私の恋の末路を










自由詩 アリアドネ Copyright 多紀 2012-11-30 01:28:19
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