牡丹
ねむみちゃん


 よしみさんは普通の女の子でしたが、勉強がきらいで遊んでばかりいました。
そしてお父さんやお母さんに叱られる度に、
「ああ、嫌だ嫌だ。どうにかして勉強しないで学校を良くする方法はないかしら。」
と、そればかり考えておりました。



 ある日、どうしてもしなくてはならない外国語の勉強をやっておりましたが、
どうしてもわからぬ上にねむくてたまりませんので外に出てみると、
牡丹が咲いておりました。

「ああ、こんな花になったらどんなにいいだろう。
学校にも何も行かずに、可愛がられる。ああ、花になりたい。」

と思いながら、牡丹に顔を近付けて香を嗅いでみました。
その香を思いきり吸いこんで、目を開いてみますと、よしみさんは牡丹になっておりました。

そして目の前には、よしみさんそっくりの女の子が立っているのでありました。
「まあ、美しい牡丹だこと。これを一輪ざしに挿して机の上に飾りましょう。」
そして花鋏を持ってきて、よしみさんの牡丹を切りました。



 しばらく女の子は一輪ざしに挿した牡丹を見ておりましたが、ノートを開いて勉強を始めました。
明日の下読も済ませ、筆箱やノートを鞄にしまいました。
そして、いたずら書きの紙屑や机の上に散らばっている絵具をキチンと片付けてしまいました。



 女の子はそれから、お母さんの居る台所へ行き
「お母さん、お手伝いさせて頂戴。」と言いました。
お母さんはたいそう驚いて、そして女の子の肩を抱いてはらはらと涙をこぼしました。
「まあ、お前はどうしてそう良い子になったの。」



 牡丹のよしみさんはこの様を見ておりました。
羨ましくて、情けなくて、思わず涙をホロホロと落しました。
その後も女の子は、自分の事は何一つお父さんやお母さんに迷惑をかけませんでした。

何より一番驚いたのは学校の先生でした。
今までは何を聞いても黙ってうつむいていたよしみさんが、
今度は何を聞いても勉強してきているのです。
習い事のお琴も、譜を見ることなく弾くことが出来るのです。



 お家に遊びに来るお友達来るお友達が、女の子の机の上の一輪ざしに挿した牡丹を褒めるのでした。
その度に女の子は「わたしは、この牡丹のようになりたいのです。」と答えるのでした。
そしてその度によしみさんは寂しくなるのでした。

「わたしのようなわるい子はこのまま散ってしまって、
あの子のようないい子が代わりになっている方が
みんなのしあわせのためにどんなにいいだろう。」
と思って、涙を落しました。

その間にだんだんと気がとおくなっていき、ガックリとうなだれてしまいました。






「まあ、よしみさん。起きなさいってば。」
とお母さんの声がします。
目を開けてみると、よしみさんは外国語のノートを開いてその上でうたた寝をしているのでした。
「ああ、神様、ありがとう御座います。
そしてお父さん、お母さん、学校の先生方、お友達、みんなに感謝いたします。」



 ふと気がつくと、目の前の一輪挿しには牡丹の茎と葉だけがささっていて、花はうつぶせに落ちているのでした。







散文(批評随筆小説等) 牡丹 Copyright ねむみちゃん 2012-11-28 01:19:07
notebook Home 戻る  過去 未来