島の火
綾野蒼希

 島は一年中寒さに震えていた

 そのかわり
 言葉と微笑が薪であった

 古い柵を壊すことなく
 海岸で流木を拾うことなく
 ストーブの火は言葉と微笑を
 のみ込んだ

 我々がそっと火に寄り添うと
 火は我々の視界に愛憎を宿す
 喉が渇くこと
 熱さにおののくこと
 何よりも生の祝祭である

 朝になれば
 灰色の贈り物をかき集める
 それを海に流し込むと
 魚の大群が波間で
 背びれをのぞかせるのである

 我々は
 触れられるものと
 触れられぬものとの領分を
 もうとっくに熟知していた
 そのために
 火は我々の記憶を
 時を
 跡形もなくのみ込んだ

 生命の名を囁きながら


自由詩 島の火 Copyright 綾野蒼希 2012-11-23 09:55:16
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