なにかしなくちゃ
YASU
「イラン戦争反対!」なんて
大それたプラカード掲げて
署名を求める女子校生の真っ直ぐな眼差しが
交差点の向こうから僕を貫いていた
僕は大人度斜め45度なる虚ろな視線を泳がせ
人ごみの中に人ごみの一部として姿を隠そうとしている
カメレオンのように緑にも茶色にも姿を変えて
丸まった舌を時折伸ばしては「あかんベー」と笑ってる
「ブッシュ大統領に戦争中止の手紙を」なんて
夢物語のプラカード掲げて
署名を求める女子校生の汚れ無き太ももが
初冬の味気ない北風にさらされていた
僕は大人度斜め45度なる憧れと諦めの狭間でバランスをとって
涙を描いて人を笑わすピエロのように
バーチャルの世界に欲望を埋めようとしている
女子校生の生々しい動画をかき集めては
「誰も傷つけちゃいねえぞ」と夜な夜な虚しさを握っている
信号が変わって
車が止まって
人ごみが交差点を渡り
カップルがいちゃついて
はたまたカップルが喧嘩して
どこかでクラクションが喚いて
どこかで命が生まれて
どこかで命が奪われて
人ごみに立ち止まる事も許されず
やはり人ごみとして歩き
カメレオンの実体は見えず
斜め45度に弱弱しいガンを飛ばし
ズボンのポケットに手を突っ込んで
女子校生の太ももは風にさらされ
僕は
僕は
ズボンのポケットに手を突っ込んで
僕は
ポケットの中からちぢみあがったバーチャルを指ではじき
ちっぽけなしなびたバーチャルを強く強くはじき
僕の薄汚れた名前を書いた
やっとの思いで
人ごみに反逆を企てて立ち止まり
僕は僕の薄汚れた名前を書いた
「ありがとう」とか
「うれしい」とか
「素敵」とか
「大好き」とか
「付き合ってください」とか
「結婚してても私は構いません」とか
「私まだ男の人知らないんです」とか
「あなたに教えてほしいんです」とか
女子校生の幼い真っ直ぐな視線が
女子校生の幼くはない太ももが
僕をバーチャルに引き込むから
チャリンコころがして逃げたんだ
「なにかしなくちゃ」
「僕もなにかしなくちゃ」って逃げたんだ
献血センターの入り口を入ると
僕のパソコンの「お宝フォルダー」に収集されている白衣たちが
「ありがとうございます。」なんて
素敵な笑顔で迎えてくれるものだから
このドロドロの血液を抜いてくださいと嘆願したんだ
400mlだろうが、4000mlだろうが
僕がぎりぎり生きていられるくらいに
血液を抜いてくださいと嘆願したんだ
左手の血管から赤黒い血が抜かれ
何度も何度も、いろんな白衣さんから
「ありがとうございます。」なんていわれて、
その白衣さんの誰一人として
胸をはだけていない事が何故か不思議で
どの白衣さんが僕に乗ってくるのかな〜
なんてやはりバーチャルと闘っていたんだ
献血センターを出ると
夕方を忘れた街はもう夜で
その上 雨まで降っていた
僕はもう一度女子校生達の元へ自転車を走らせた
何かお礼を言いたかったんだ
缶コーヒーでも差し入れしたかったんだ
でも女子校生達は帰ったらしく
そこは人ごみに飲み込まれていた
カメレオンのように
何も無かったかのように
そこは人ごみに飲み込まれていたんだ
雨はますます強くなり
血を抜かれた僕はフラフラとしていた
「なにかしなくちゃ」
「僕もなにかしなくちゃ」ってフラフラとしていたんだ
カメレオンに飲み込まれた女子高生に
ありがとうなんてつぶやいて
赤い雨の中
全力でペダルを踏んだんだ
赤い雨の中
フラフラと戦いながらペダルを踏んだんだ