事実
世江
いつもの帰り道。
電車に揺られながらうとうと...
夢現の中、あんたの声が聴こえて
ハッと目を覚ます。
でも、居るわけなくて。
普段は絶対聴かないバラードを、
これまた、普段でも有り得ないくらいの大音量で流す。
中身なんか、どうでも良いんだ。
俯いたまま目を瞑り、
ゆっくりと夢の世界に堕ちてゆく。
零れ落ちる雫なんか、気にしない。
ただ、真っ直ぐに、堕ちてゆく。
お決まりの機械音を聞く前に、
電車を降りる。
歩いて、
歩いて、
目的地を目指す。
もう、目の前に光なんかなくて、
あるのは、闇へと続く道......
真っ暗で、音は見えない。
光りも匂いも、聴こえない。
気づいた時にはもう遅くて、
頭を抱え、しゃがみ込んでいた。
“ここは、何処なんだろう...?”
無機質に響いたその声は、
闇へと消えていく。
時間だけが流れて、
私の想いだけが、
この場所に取り残されていく。
これが現実であり、
離せないこと。