11月の海流は。
元親 ミッド

寒さのあまり目が覚めて

気がつけば、職場で椅子に座ったままで

くしゃみが鼻先で誘爆すると

まるで冷たい水中にいるのではないかと思うほど寒かった。

いつの間にか、窓は真っ黒に塗りつぶされて

その向こうには、早くもクリスマスの電飾が輝いていた。



かばんを持って、あわててビルを出る。

同僚たちは、今夜も陽気にビアジョッキをかかげで

楽しく牽制し合っていることだろう。

携帯に残された果たし状には

居酒屋にて待つ、一人でこい、と書かれていた。

クリスマスを待ちどおしい子供のように

街は、うかれモードにシフトしていて

そのきらびやかで眩しい夜の街をゆく。



スーツの上に、何か羽織ってくれば良かったと

己の準備の悪さを後悔しながら

冷たい海流の中を逆らって歩く。



車道には、座礁したタクシーで溢れかえり

笑いながら腕を組んであるくカップルや

くたびれて帰路を彷徨うサラリーマン

バス停で各々の携帯電話を一様に覗き込んでいる一団

塾帰りであろう制服の高校生

楽しそうにグルメの話題で盛り上がるOLさん



それらの群衆の上を、西鉄電車が

夜空を駆けるトナカイの如く

その四角い窓を煌々と光らせて流れていく。

あそこには、毎年、これほどまでにいるのかと

驚くほどたくさんのサンタクロースが

ぎゅうぎゅうに詰め込まれているのを私は知っている。



果たし状の場所の前を、無言で通過した後

暗い路地裏に入り込むと

自身も闇夜と同化する。

そこは街の深海だ。



そうして一軒のBARにたどりつき

静かに扉を開くと

ほの暗いながらも

居心地のよさげなカウンターが目に入る。



ホットラムでもいただきましょうか。

アイリッシュコーヒーか

カフェロワイヤルか

ホットのクライベイビーもいいね。



思い出したように

また、鼻先でくしゃみが誘爆し

ぞくぞくとする肩に、背中に、

冷気がかぎ爪のようにくいこんだままだった。



Please enjoy your drink !


自由詩 11月の海流は。 Copyright 元親 ミッド 2012-11-12 22:28:23
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