榛(はんのき)
……とある蛙

広葉樹の多い樹林の中央に
高さ二〇メートルほどの榛の木が一本
屹立するその根元はジメジメとした地面が広がり
いち早く裸木となった榛の木は
次の春に暗褐色の花を付けるため逼塞する
あたり一面紅葉や楓の鮮やかな赤
カツラや楓葉の黄色に染まった雑木林
一本屹立し冬を過ごそうとする榛の木
その榛の木が断ち切られる
誰かの都合によって断ち切られる



切り株から深紅の木屑が
真っ赤な木屑が
流血の大惨事のように
あたり一面を染める
根元の湿った地面を染める
森の一箇所を染める

冬支度をする猿
寝入る前食料をあさる熊
木の実を集める栗鼠
榛の木の根元で
小動物も含め森が吠える
一様に咆哮する
一様に咆哮する

その咆哮は誰にも聞こえない
誰も聞きはしない
すぐに数字として計算され
切り倒された榛の木は
そのまま搬出される
深紅の木屑を撒き散らしながら

誰にも知られず
誰にも否定されず
誰に知ろうともされず

こんなことが
この国では半世紀以上も続いている

しかも、こんなことまで
輸出してしまった。


自由詩 榛(はんのき) Copyright ……とある蛙 2012-11-12 15:59:22
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