彼等
佐々宝砂

1.

とても静かな村だった。今もきっと静かだと思う。
お祭りのときだってそんなに大騒ぎにはならなかったの。
屋台もちっぽけなのが五つくらい出ただけで。
綿菓子とお好み焼きと鯛焼きと。あとは何だったかしら、
たぶんフルーツジュースと。りんご飴か何か。

それでね。綿菓子を買って帰ったの、だけど、
綿菓子買ったのがばれると怒られるからお寺の境内で。
お祭りだから神社には人がいっぱいいるの、
でもお寺にはだあれもいないの、いつもそうなの、
それで私はお寺の境内のベンチで綿菓子を食べていた。

そうしたら、そのひとがやってきたの。
姿勢が少し悪かったけれど普通のひとに見えた。
そのひとが着てたあかるい空色のTシャツを覚えてる。
顔なんか何も覚えていないのにね。不思議ね。

そのひとがざっくりと私のおなかを刺したので、
それで私はここにいるの。


2.

空の向こうをみてごらん。あかるいね。
あかるいでしょう。あそこまでゆくのよ。
でもあそこまでは長い道のり。
淋しくて、暗くて、寒くて、長い道。

そしてそこにはいろんなものが蠢いていて。
かたちがなくてかたちをほしがる魑魅魍魎、
やぶにらみの目にあかい涙の鬼神たち、
しでむしをたからせた骸骨、しゃれこうべ。
四十九日のあいだ、その道をゆくの。

泣きたかったら泣いてもいい。
でも泣いてもお母さんはやってこない。
本当はひとりで歩いてゆく道なの。
私もひとりで歩いていったの。
みんなのお母さんもいつかあの道をひとりでゆくの。
みんなは特別に許されて八人でゆくの。
私をいれたら九人ね。これだけいれば心強いね。

どうしてみんながここにいるのか私は知ってる。
みんな今は思い出せないとおもうけれど。
まだ思い出さなくていいの、今はまだ。
あちらに着いてからでいい。
あちらでおおきなひとに会ってからでいい。

でもあちらに着いたら、思い出さなくてはいけない。
それから決めるの、いいこと、自分で決めるの、
憎むか、許すか、なかったことにしてしまうか。
それはあとで考えればいいことなのだけど。

お話はこのくらいにして。
さあ、ゆきましょう。
あかるいほうへ。



自由詩 彼等 Copyright 佐々宝砂 2004-12-18 02:32:20
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