同時多発ツイート連詩【おいしい水を】 こひもともひこ・リミックス
こひもともひこ

注)この作品は、宮尾節子さんの呼びかけでつながったツイッターでの連詩を、私が独自の視点でつなげた作品です。

◇◆


【おいしい水を】


彼岸花咲く草道を分け入ると。
雑木林の麓に、水の湧く場所があった。
落葉を払うと。
くすくす笑うように底の砂を持ちあげ、透明な塊りが盛りあがっている。
跪き手を合わせ祈るようにして。
祈りを覚えるより先に、冷たくあまい水の味を覚えた。
渇きを癒す水。
傷みを拭う水。
私の喉を通り 体を巡った水は 
私に恋を教え 幸福をもたらした 
水が潤したものは 
私の肉体か それとも心なのか 
顔をあげ辺りを見廻すと 
変わらぬはずの風景が 鮮やかに煌めいて映る 
私は水を汲み 静かに立ち上がる 
あの人に届けなければ 
このおいしい水を 

たった一人の少年兵。
落とされた非現実は超現実派の絵のようだった。
彼の全てはなんだった?
あなたの全ては?
彼女の全ては?
そんなもので失うくらいの全てじゃない、なんて。
生き叫ぶ、
断末魔は念仏へ。
誰もが水を求めてんだ。
だったらもう、泣くことさえも煩わしいな。
祈りが、
ついでのように、
残される、
つたう、
涙ではなく水ではなく全てが、
つたう、
終わらない道端にものがたりを探した、
生きてるからってそれがどうした 
この水も、
あの水も同じ水で違った水である。
違った水だけれど同じ水でもある。
ぼくの水とあなたの水も同じ水だけど、違った水だ。
違った水だけれど、同じ水である。
いくら混じり合っても、
すっかり混じり合わせても、
違う水だし、それでいて、つねに同じ水なのだ。

ジャブジャブ飲んだ。
ガブリと飲んだ。
地面が回る、自分が回る。
宇宙の摂理に乾杯して、星になるためドンチャン飲んだ。垂直に地球は立ち上がり、熱烈キスを目蓋の上に。ゲラゲラ笑って鏡の世界で、末期の水の次においしいと、酔い醒めの水を飲むための苦労ごくろう。そのこぼれたみずが、頬をさましていくのだと、まつ毛そよがし。枝が蔭した陽の下で、ひっそりと夜のなみだが土に交じる。根のない観葉植物を土にうえ、したの上で転がした言葉を飲み込み。踵で確かめた。ここにいること、これからゆくこと、その両方に風をうけて。びっくりするくらい どさどさふってくる 雨。がまんできなくて とびだす。
くるくるまわると地球になってる。
どきどきといっしょに雨。
こくり、
こくり、
こくり。

Ms.Cried.
武蔵野の丘陵に城をかまえ
土奥深く礫の砦を築きあげ
眠りつづけるミズクライド.
道路清掃車は午前4時.
かすかな黎明のアルペジオごときに 心をうたれることはない.
おめざめには届けようクレソンのサラダをたっぷりのおいしい水を.
夜の呼吸が朝まで続いて、
葉に溜まった内緒話は笑いながら転がり落ちる。
君は下で口を開け、
わずかひと時、
雫を受けては今日に身を投げ恵みの声をだす。
I want you。
心に果肉の粒を押しつけて花の形に整列。
いっせいに雫が弾けて声が。
おはよう。
もう朝よ。
水が、
一杯の水となり、
わたしを一巡りして還る。
わたしの草臥れた細胞を連れ出し、再び空気に触れて光とまぐわい、そして髪の毛一本、爪の先までも生きよと、言わんばかりの爽快さをもたらしてゆく。
わたしを浄化する。
水が、
注ぎでる水が、
まぶしい。
胃腸を損失し吐き気だけが残る夏は蝸牛も海月もとうに消化されあらゆる事に自分をカンジョウに入れずいつも静かに笑って居る、
あらゆる事、   
最早カンジョウすら出来なくなった私は私を消化した 
蛇口から滲出するカルキ水の蒸発する姿だけ美しかった

涙をなめたとき、海から来たと、知った。
乳をなめたとき、物凄い甘みに、何を知ればいいか、わからなかった。
成人で60%新生児は80%が水分の、水菓子みたいなわたしたち。
愛は渇き、
口づけは、
口移しの水の移動。
係累は水脈。
乳と蜜の流れる地より。
ないてわらって。
狭い隙間も気にせず。
せき止められようとも乗り越え。
左右から刃を突き付けられようとも臆せず。
あるがままに流れ。
形を持ちながら形はなく。
誰の中にも溶け込み。
誰をも蕩かす。
味気ないと思えば味気なく。
おいしいと思えばおいしい。
今朝の目覚めの一杯。
おいしい日本酒を飲んだ。高い酒だ。
水のようにすっきりとした味わいだった。
中国の詩人だったかな。
人と人のまじわりは水のようなものがよいと。
ノブユキのことが思い出される。いつもいつもノブユキだ。
流れ去ってはとどまり流れる川のようだ。
こういう意味じゃないな。
指をのばして確認する
あるがままの仕組みか、
変化する天井か、
真昼へとながれていく時間をうけとめてわたしたちの呼吸は わたしたちのものだった。
耳、
ほおって、
目覚めたのでしょう、
あなたははるかたかく生きているように生きていく。
だいきらい、
空に浮かんだ耳たぶを摑む。
まだそこにいるから。
灼熱の夏をかけて集めた青やみどり色のハチミツをあなたに届けよう。
真昼までに。
ステップステップ。
ボサノバのリズムで。
昨夜の蒸発を今朝の指先に集める 
十滴の汗と引き換えに手に入れた一滴を左眼に垂らし、右眼を閉じた 
水平線を見上げるように急な下り坂を転げ落ち、
失われた均衡に、
真昼の錯覚を覚悟する
のんでみるがいい 
泥色 土色 墨色 
の 
水 
を。 
世界中で 貧しい 人々 が 仕方なく。 
ときどき 死ぬ。 
透明 なら 安心かい? 
contaminated を 知らないのかい? 
某国の河 は 抗うつ剤 眠剤 だらけ。 
美味しい 
水 
は 
どこいった。
真夜中の枯れた薔薇
深い森の木々
走る子
病人
白い海の上の恋人たち
息をきらす
全ての
創造物
生かされている
者たちに
与えられるのを
月はじっと見ている

北沢アリゾナ急行に乗って
灰かぶりの継子は世界の果ての井戸へ行く
たくされたパピルスでは おいしい水はすくえない
蛙の将軍が 剣にしている硝子のペンでいいなずけ
うまいことばをすくうのさ
alĭ ṣonak árida zona aritz ona
頬杖をした 貴族だけ が おいしい水 を 飲む 世界 は 長く つづかない 地球 は ひとつ の 球 に すぎない 彗星 に 祈りを 託す 魂たち が 軽んじられている ユダ と カンダタ の 支配 先住民 の ため息 が 聞こえるはず 人間なら
循環する水はゆめを見ている。
アサガオのあわいムラサキ、コンクリートに浮かぶあぶら、ぐうぜんの虹、傘の死がい、草のにおいをしみつけて空のさかさまへほどかれるとき、からだを見ていた光のことを忘れたくなかった。
また、あなたへ降る。
朝の水際で、グラスを手にあなたは。
天空のみずうみや空中都市の話をする。
ちちかかこ。
まちゅぴちゅ。
こちゃばんば。
くちの中でさかなが跳ねる。
ゆめを泳いできたのね。
ごくり。
水を飲むあなたののどの林檎。
どこかへしまいこんだケーナを探そう。
早朝バルサを伐って 海に漕ぎ出す。
貿易風ヨウソロ。
ピューマの岩というらしい 水たまりを 後にして トビウオ舞うポリネシアへ。
父母の思い出は懐に。
結わえた蔦は海水を吸って 故郷を思う頬に塩辛く。
けして戻らぬと 笛の音でかたどった新しい
空を呑むんだ。

どこまでも白い湖はまれに広く青い空を映すのだと聞いた。
天空の鏡に立ちつくし息を飲み癒されるのだろう(水が飲みたい)。
境目が消えた世界を束の間夢みたいなら、
手のひらにすくって現実のしょっぱさを味わってからがいい。
尊い理想を実現したい気になるだろうから
それは舞い落ちる星屑なんだ。
水と解け合いミルキーウェイ。
君は洗濯機の前で全てをさらけだす。
脱ぎ捨てられた抜け殻はレコード盤のように音楽を奏でる。
悲劇も喜劇もめぐるよと。
さあ乾杯。
ほろ酔いのワイシャツが楽しそうに言ったのさ。
潤されまた渇き飢える。
あの夢で見た運河の影。
風と語らいながら相槌をうち、流れる雲を追いかけてゆく。
咽び泣く空に呼応してうねり、覆いつくす。
迷いなどすべて飲みこんで。
失いながら与えられる。
音と気配はいつでもごく近くに在る。
潤され、また。
落ちてゆくしずくを指でなぞり、
宙空に留まる無数の星を夢想する。
氷面から滴る透き通った世界。
閉じこめられた妖精が身じろぎをしてカラン、
とちいさな音を立てた。
グラスの中で広げる夢幻。
群がる結露の憧れの結晶。
まとめて身体の中に誘う。
おいで。
おいで。
チノカヨワナクナッタ コブシ カラカ ムネニ コッタ カタマリカラカ イクツモノ ミズバシラガ ハテヘトノボル カエッタ シズクハイツカ イワヲヲウガチコロガシテ サトニナガレ サテ ナニヲ (それは何かのサンプルであるようにおもえた。キラリと光るそれはどこか遠くに戦争が起きるほどたくさんあって、その一部を誰かがこのテーブルの上に置いて行ったんだなとおもった。容器にペタリと貼られたラベルはその内容物が?おいしい水?であることを告げていた

空気が清潔なガーゼのように触れたので/
あの帰り道の/
解放感を思い出す /
「坂の詩を書きたい」と言っていた人は/
体に流れている水が見えてしまう人だった
すかすかするものを噛みくだいて
飲みくだして
えいようだからといいきかして。
嚥下するまいにちをだれにささげればいいの?
あの、
熱病の水で満たした時間は
たしかにかみさまのものでした。
水の味はミネラルや微量元素の絶妙な配合で生ずるこの星の清冽な奇跡と言えるが本件ではそれらを全て無にし秘蹟の味どころか生命を脅かす毒を混入せしめてもなお安全といふ被告の主張が何処まで自然界の味方であるや否や被告はまず其の水を飲み干してから改めて供述を。

海の水など飲めたものではないのだけれど、
ぼくたちは海の水を飲まなくてはならない。
ぼくたちは毎日、海の水を飲まなくてはならない。
海の水もまた、毎日、ぼくたちを飲まなくてはならない。
海はぼくたちでいっぱいだし、
ぼくたちの身体は海の水でいっぱいだからだ。
水平線の位置をずらして水位を上げる。
貴方の瞳が溺れそうになる傍らで、
北国の雪を溶かしては赤い糸をそこに浸し、
できる結晶を正直に写真に撮った。
哲学を語る兵士の持ち帰った本には、一杯の水への感謝が。
枯葉、
マシンガン、
水たまり。
泥水を涙で洗ってはまた進む。

30年前に分譲された 住宅地の中でこの一角だけが 水道を引いてなかったという。 そう県営水道の事務所で告げられて 途方に暮れて帰り道。 井戸の水を飲む生活を なぜ今まで考えてこなかったのだろうかと。いいかいこれから父さん達はおいしい水を探す旅に出なければならない。そしておいしい水は度々私達の目を欺くだろう。ある時、暗い海の底に、母さんは森の奥で息を殺す同じおいしい水を見つけ出す。だがそれは同じ木の梢でウツラウツラしている別のおいしい水だったのさ たまには一瞬の何かために 続く将来のための今を犠牲にしてもいいじゃない。ため息つくほど疲れても 賭けたいの。あなたの喜ぶ顔が見たいという、それはもしかしたら私のためかもしれない。だけど他人の幸せを願うようになった私は今、うつくしく、満たされているわ。

正門前の喫茶店で見せてくれた永久凍土の写真。君の旅の目的地。
過酷な場所に生命を置くだけなら、ここもそんなに変わらない。
封じられた時間を想ってコップの水が汗をかく。
「いつかおいしい水の星になるのかな」君の呟きはいまでも鼓膜の裏をさらさらと流れているよ。
流れに溺れて
水の塊が
耳から脳に侵入して
鼻からも口からも目からも
どこからもとなく流れ出す 溢れ出す
思考のような
流れを持つ
ありふれた水の
少々の塊が
私の眠りを支配する
狂い咲きのアスチルべ、
あああ、
美味しいでしょう美味しいでしょう美」「味しいでしょう美味しいでしょう美味しいでしょう美味しいでしょう」「美味しいでしょう美味しいでしょう美味しいでしょう」「美味しいでしょう美味しいでしょうとつても美味しいでしょうね」

崩れていた土くれに 水を注いだ。
土くれはつぶれて しおれた花に 似ていた。
しおれた花は 朝露に濡れていた。
寒い朝。冷たい空気。
透明なガラスに 水道水を注いで キッチンのシンクに置く。
私は 目をつむり 深呼吸をする。
おいしい水を。
まだねむる まつげに おはようの くちづけ。
うぶげのひかる かいがらの みみには ささやき。
アバデュベベ アバデュベ ベカマラ 
こわがらないで わたしを。
からさないで こころを。
アバデュベベ アバデュベ ベカマラ。
めざめたら 
ほほえみと 
まどべには 
カーテンを開け空を眺め一日が更新されたことを確認する。
食器棚からコップを一つ。
蛇口をひねる音。
あるいはポットのボタンを押す音。
あるいは冷蔵庫を開ける音。
パックを取り出して口をあけ傾ける音。
そそがれる音。
3秒。
飲む。
今日の始まりを。
その喉を潤すために いっぱいの水を。
冷たく通り過ぎて一本の柱となり それが垂らされて 淀みそして拡散し消えて行く。
僕の中でまた起きる変化を 涙の塩辛さがやわらいでいくのを ほんの少しだけ。
枯らした観葉植物はまだ窓のふちにぶらさがり 外は雨がまだ。
きのう一日、
いや、いつもそうだ。
ぼくはなんて片意地で、依怙地なんだろう。
それはきっと、こころが頑なで脆弱だからだろう。
どうして、恋人にやさしくできないのだろう。
ぼくの身体はなんにでも形を合わす水でできているのに。
広い大きな海でできているというのに。
流れ込んだ水はいつ塩を含むのか。
川が海となるその境目で、
確かに僕は君と混ざらない。
道にはコスモスが咲き、
似たような顔が異なる視線を落とした。
濃度は襲いかかる。
涼やかだった空が、時間さえも薄めようと垂れ下がり。
まだ秋だというのに、
凍りついた言葉の前に。

宇宙は一本の樹でできている
ユグドラシルの根元には 用心深い泉
目覚めよ
踵からつま先から脹脛から のぼっていく欲望が 身体中をおさらいする
雲をはがして空をあおぐ
枝を抱いて
おいしい水を 口づけしよう
というすいぶんをはじいて、
すすったこえがのどをうるおす。
なんというあわいなのだろう? 
のむことがのまれ、
ひとつぶのすいてきが、やぶれ、
やぶれてわたしにとどく。
あなたのなかで、
どんなにかおいしくなりたかったよ。
ふるえるすいしつの、
ごくごく、
やさしい。
「さよなら」も言えず、
とめどなく流れる涙をコップに入れ、記念の大事な宝物として、そっと私の扉の中へしまおう。
私が愛した星の、
その回転が止まるとき、
愛の花びらがはらはらと散るだろう。
宇宙から雨が降るだろう。
それも涙の一つ。
私は誰かを変える自信はない。
誰かで変わる自信もない。
長い髪束ねて歩く、
石楠花が咲いた昼下がり、
太陽は真上にあがって、
さぁ誰に届けよう。
届いたのは空びんで、
一本の花がそえてありました。
少しだけしおれていたその花に、水をやりました。
僕ができるのはそれだけ。他には何もない。
長い髪を切って。ネクタイを締めて。かたすぎるアスファルトを歩く、灰色をした太陽の下。
気付かせてくれて、ありがとう。
ヴェルヴェット
きみがうまく潜ってゆくさまを見てる
水のなかの水
もうなにも分けられない 分けることもない
こっちへおいでって ヴェルヴェット
きみが深度になるまで 引きあげることは しないから
吸い込んで身体中に。
生き渡る、
隙間を埋めて和らげてゆく。
昔見た青緑の風景がまぶたの裏に浮かんで消えた。
ごくり、
飲みこむ音でなにかと溶けあえる、
一瞬。
めぐりめぐる、
その一口の呪いが変えてゆくはずの。
今夜流す涙はきっと昨日よりすこしだけ甘い。
涙 
それは 太古の海に降る 雨 
ぼくらは そこから はじまった 
そうLA MER  胎内で 何十億年の進化を 再生する 
こころの中の 嵐 は 天の怒りの証  
月も地球の子  大洋の子 水を懐かしみ この星を 見ている  
ぼくらは宇宙の子

ひねりたての肌が恋しいように、ひねりたての水が恋しい。
波をひねって、波の声に耳を傾ける。
ひねられた水は、ひねられた形をゆっくりと崩して、ほかの波の上にくずおれる。
波をひねり集めて、鋭くとがった円錐形にする。
ゆっくりとくずおれる円錐形。
水の胸。
水の形。
蛇口をひねるとりんと冷たく、
秋を手に受けた。
いつまでもひたしていたら、
いつのまにか透けていた。
ゆうべ割ってしまったお茶碗の欠片、
あとで片づけようって眠った、
怠惰はやさしく朽ちるだろうね。
もうすぐ、
風になります。
浴槽の中で
わたしの体の七割は水で
つまり浴槽の中には 三割のわたししかいないことになる
皮膚一枚が危うい境界線
これを脱いだら
少し自由になれるのかな
なんて、
考えて、
笑う
あの、
質問していいですか主任/
何だいマリンちゃん/
何で私と主任しか居残ってないんですか/
泣きたいのは俺の方さマリンちゃん/
主任、前自分なんてただのたんぱく質の塊さ、とか言ってフザケてましたよね、ただのタンパク質の塊がフザケたり涙を流さないでくださいよ
「乾燥肌の救世主、スーパー保湿液誕生!」
「機能性飲料の大革命、乾いた体に速攻吸収!」
「人生にもう一度潤いを、船で行く世界一周の旅へ!」
「あなたの心を満たす記憶の海にスピリチュアルダイビング!」
こんなにやっていったいいつになれば渇きは消えるのだろうね
こんなに美味しい水を飲んだのは実に三年ぶりの事でした 
蓮の茎から繋がれた私の四肢が取り込む生理食塩水には白皮症の蝸牛が群生している 
今日、鱗が剥がれました 
いよいよ息が吸えそうです
ずずず。
太古からの欲望がモンスターとなり粘膜を襲う。
疼く。
吐き出したい。
幾度のミレニアムを経て花粉は化合物となったのか。
ずずず。
免疫システム。
どうだこれが自他を分ける存在証明だ。
どちらともつかない遠吠えが鼻腔に響く。
吾は自然という戸籍の末裔。
ずずず。

森番は木陰で山羊を抱くようにやさしく彼女を抱いた。
空は女のしろいのどを始めて見た。
森の水がおんなののどを流れた。
あなたはわたしの家だと男。あなたを失えばわたしは家を失う。
あなたはわたしの幸せだと女。ふたりはなんどもなんどもくちにした。
言葉からあふれる。
朝から愚痴をこぼす電車。
冷房の汗をかくことがなくなっても渇きを抱える乗客。
箱の中で自分を失くした人々がただ運ばれることだけを自覚し、早く人間に戻りたいと願っている。
駅からオフィスまでの間、
コーヒーショップやコンビニで飲み物を手に入れるまでには。
表面張力を検証し、
偽りの水を口にした。 
降りしきる雨は黒 
偽りの為の境界線。 
部分でしかないはずの僕らが、自らを区分し、水を偽る。 
再び雨。
雲の切れ間を、
必死に探す。
山荘で目を覚ます
鳥たちが水を探してさえずりはじめる
遠くで容器たちの起動音
人々はどこかの巨大な頭脳容器に管理されていて 見えないLANで 拘束されている
鳥たちが自由に喉を鳴らして飲む水は 人間には見つけられない

泣いて泣いて泣いて
絞り出すように泣いたら
野生の動物がそうするように 喉を鳴らして飲み干す
大人ならみんな知ってる
明日またドアを開けるために必要なものは何か
そしてその甘さ
やさしさ
流したのはトイレの水だけ。
私まだ、あんたを許せない。
くちだけで笑って
チェシャ猫みたいに。
逃げるなんてひどい。
こんなお天気なのに。
ばか。
酔って寝ちまってるあんた。
ででく。
じゃあね。
あ。
キッチンのテーブルにコップが置いてあるから 水道水だけど。

おぼえている
君の髪は海のにおいがした
君の目は雨の色
君の鼓動は伏流水のせせらぎ
幸福だった
わたしは
くり返し鼻歌をはばたかせて ペーパーカップは満潮にあふれてしまった 夢は小舟を浅瀬に曳航する 月でも鳥でも風でもなく 君は わたしの舵だった おちてゆく そこは深海だった みなそこに ねむる 手をつないだ記憶も 髪を結わえた記憶も わたしたちは しずく この結合が あなたを ながす 方向はきっとおなじ かずかぎりない 泡の囁きとすれちがい おいていかれたのは きっとわたしだ あめふらし て いちど天に昇って、こぼして見せた涙粒。挫折を知って降らせた人の思いが、それを汲み取り、豊かにする詩人の下へ届け。
いつかその痛覚で彼方の空をわらえたならば、きっと透きとおる水にだって色もつくことだろう。
もういちど天に向うときに、七つの色がつくだろう。
赤や青や黄や紫の光線の中で私は生まれた。
私を精霊と呼ぶならそうだろう。
形のない物と呼ぶならそうだろう。
何もない物と呼ぶならそうだろう。
ただ湖の真ん中で水を飲み水を浴び、愛に飢えた鳥のように、虹のように、
あなたの前に現れては消える。
時空を超えた水と共に。

あまいみずの、こっちだよ。
はっこうする、
あれは、おいしいいのちです。
にがい水なら、わたしをさそう。
ちいさなしじまが、いっせんひいて、きれつのなかで。
かれをどちらによんだのか。
ほ、ほたるは水だけのんで、
みえなくなった。
ゆめでのみましょ、あっちにこい。
何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ、
どこだ。
君がいないなんてそンな ソンナコトッテアルモノカ。
君の軌跡往復してそれでも会えない。それでも諦められない僕を、誰が笑うことが出来よう。黒い雨なんかで出来てしまった彼女の70%それはもはや通過したしずくで わたしを潤すことはない。
あなたがこぼれおちてゆく わたしの中から 溶けだした うつくしいものが 蒸散し 空は形をかえて。
あなたは 違う 誰か を抱く。 に抱かれる。
わたしの棄てた涙は
もうあなたを潤さない。

ぼくのなかで、分子や原子の大きさの舟が漂っている。
その舟には、分子や原子の大きさのぼくが三人乗っている。
漕ぎ手のぼくも、ほかの二人のぼくと同じように、手を休めて、舟のうえでまどろんでいた。
舟がゆれて、一人のぼくが、ぼくのなかに落ちた。
無数の舟とぼく。
刺々しい炭酸水の気泡には
焦燥虚栄逃避、

七つの泡を指で弾くと
味気も色気もない人肌の
素直さという名の

立っている。異なる色で、
守るべきたった一つの橋の上で。
なぜ心に潜ると言うのか?
水嵩が増す。
雨が天に向かい、橋を浸して。
臆病な熱狂はトレイから水の入ったコップを奪う。
水だけが相互に浸透。
言葉はまだ親密という言葉を知らない。
想像的な絆だけがただ在って。
吹きあがる嵐が過去を見やりながら空へ還りゆく。
道筋を深くえぐり、
囁きが漏れ聞こえた。
もうすぐ重なる?
あの浸された羨望が踝を洗う。
つめたい、
温度が、
やさしく、
包んだ。
水面が見つめかえすあの日の自分。
両手でひとくち、
汲みあげて飲み干せば
水の温度は複数で、
仮面の裏側に塗るニスを溶かせない。
彼の地へ行く為のガソリンを選べ。
色つきの液体だって感激するカラダは、
架空の腹心が支配している。
過去の清算には経費がかかって、
買い物カゴをぶら下げた猫背が、
足下の綱に気づかないままふらついている。
大腿を伝う無菌水は肌に触れるや否やいつもやられて腐ってしまう 天井、
漏水の真下に転がした空洞の私 
うたをうたいながら只々ひたひたと充たされていくのを見ている
(特に興味が無い)
(まだ抗う事を知らない夏)
顕微鏡を抱えて/
潜り込んだ湯船に/
わたしたちの空が眠っている/
あぶくを/
覗こう/
口から吐いたあぶくを/
捕らえて/
なにが詰まっているか/
知りたい/
ふ、ゆ、と言ったらふゆが満ちたよ/
あ、さ、を呼んだらあさが満ちるよ

The night is youngという言い訳の美酒を飲む。
死が怖いくせに酩酊の誘惑に負ける。眠りの中の出来事は忘れた。
渇きから逃れるのにうってつけの液体。
このまま、夜に沈み、朝を拒絶するのだ。
でも、太陽のまぶしさに負け、蛇口をひねり喉に流す。
砂漠の生き物が言っていた。
体の底までからからになって、もうおしまいだと思った夜明け前の、肌に伝う感触と匂い。
待っていた、
あなたを。
逃がさずにすべて飲み込む。これでまた生かされた。
また夜明けを待つ。
あなたを待つ。
まるで恋のようだと。
耳を近づけると、話声が聴こえる。
くるるる、りるるる、るるるり、りろりろる。
気持はわからないが、見た目は澄んでいる。
最初は冷たかったが、最近は。
せるるる、せりるるる、せろりろろ。
名前を覚えてくれた。
追いかけっこをすると、飛び跳ねて喜び。
たまに飲まされる。
鈴の音のような名前の貴方は朝露を指の先に乗せてそっとくちに寄せた。
私は重みから解き放たれた草の先端のように跳ね揺れ、雫を飛ばしてしまい掬いそこなう。貴方の唇に惹かれたのか、ふくらみを艶めかせる水に心奪われたのか。
今はただ触れたい欲求にかられている
おそくはない
いつだって
しの世界にソファー いしコントローラー片手に
みずいろの環状線張り巡らせ ずずずいっとな いままでに飲んだ水の杯数を指折りかぞえ、その指がまた水を願う。
肺魚が君の椅子がある宝箱の蓋を開け閉めするが、それ以上に君の脚は美しく成長したのだ。
呪文と戦闘を見据えて。
アンチエイジング。
内側の水が外側の肉を拒否することはもはやない。
とかげだった頃の記憶。
井戸の内壁を這っていた、
底の方へ。
いつのまにか瞳を失い、
ふとつめたくふれた場所。
ひらひらとふるえる気配、
からだを沈めずにはいられなかった(私を待っていたのでしょう?)
あの、
ふるえは、
あなたの名前。
呼ぶ声を持ってうまれてきました。
完璧すぎる擦れ違いの果てに
隙間があった。
無限定に広がる荒野が
脇の下にあった。
身体を失っして垂らされる腕の
脇の下があった。息を吸いっぱなしの嗚咽があった。
山並は動かないが。
二つの意向は肺を失っしたまま
息を吸い続けて
腕を空転して振り回した。完璧すぎる擦れ違いがあったのだ。
詐欺だ
痛みをこらえてたどりついた泉
そして跪く祈る
永遠にふれることのない密会
水は
貿易船のワイン樽から
ボードウォークにこぼれでた
プラシーボ
恋ではない
山師は
八幡山の惣菜屋で
ピクルスを味見していたのだ
胸に沈黙のナイフをきらめかせて
ぽつりぽつりと濾されてゆく。
そこでわたしは取り除かれた不純物。
迷い、傷つけ、
恋をしたこともあった。
しかし今、後悔などはこれっぽっちも無い。精いっぱい生きて来たからだ。
安らかなる思いで、46億年の記憶の中に眠ろう。
さあ、ゆくがよい。
永遠につづく道を。

僕はアスファルトの上のアメンボウ。
甘えんぼうの水の馬。
いつもの水曜の道で時間と競争する。
この秋空が水溜りだったらな。
声を届けたくて得意の手旗信号。
カーラジオから
MAKE HER MINE。
アスファルトの荒地に 鏡 水溜りの鏡 転び這いつくばった者だけが 奇跡的に見る 淡い 虹 洋梨が茂る庭で老婆が祈る 蜜蝋を灯したこころの礼拝堂で
ありがとう
せめてお水を
眠れない時には 仰向けになって 目をつむって
温かな水の中に
背中から
ゆっくり沈みます
やがて
ゼリー状の眠りに絡め取られて
水が肺を満たします
身体が水と同化します
外側から溶けてゆきます
夢だけが蝶々ひらひら
水面を漂うのです
淡い膜の内外で、
質量のない夢が水を呼ぶ。
宇宙の欠片に繋がる舞いをする為に、
いのちの躊躇いを映していたのだ。
響きという愛が佇み、
何処からか永遠という創造の轟きに、一雫の時が流れる。
肌に傘から逃れた雨が挨拶をしていた。
青い鳥を連れてきたのは天使だったのか。
窓辺に飾られた鉢植えにまぶしい秋の陽射しがさし込む。
さあ水をあげよう、
たっぷりと。
遠い外国の街でも雨が降るだろう。
ねえそうだろう、天使くん。
蒼天の先にいる創造主は忙しさのあまり青い鳥と天使を落とした。
ようこそ、君。
岩陰にひっそり眠るように 揺蕩っていた その身が 急に力強い腕に掬いあげられる ぱしゃり…腕の中で跳ねる 煌めく光に照らされて 灰褐色の鱗が虹色に輝きだす ぱしゃり… 水しぶきの虹の弧をかいて 腕の中より清流へと飛び出す すいすいと…何処までも…海から来た私たち。海へと還っていくのなら。 あの日私が流した涙、廻り廻ってあなたが飲み干し、 あの夜二人が流した汗をいつの日にか私が舐める。 輪廻するそのものが…今、私の中にある。

お風呂の水で顔を洗った。
その水でトイレを流した。
停電したら水は出ない。
水がなければ米が炊けない。
店舗からは水が消えた。
井戸水に救いを求めた。
それを越えたわたしたちには水道から出た水はいつだって
「あぁ、おいしい」
コップに手のあとを付けるものは飲める。
コップに手のあとを付けないものは 口を開けて渇いたことに気づかない。
飲めるものに雨は降らない が
永遠に悲しみの木陰は降る。
脚色無しに、
甘い水を。
人生の鍵を路地裏で交換して、夜の人になる。
はるか彼方の虹すら見えず、
雨どいを伝う水が血に見えて錆びた腕時計が無言を貫く。
響くのは高鳴る鼓動ではなく靴音だ。
弱々しい、
落ちぶれた音で。
どうして?
と微粒子がぶつかり合う再起の尋問。
知恵の輪を解[ほど]いた頃に、
滔々と滴るだろう。
熱を柔らかく、鎮めるだろう。
空の気配をきき分けながら――出自も知らない結晶として――名もなき名辞を散りばめながら――五感に馴染むだけの勇気をもって――速やかにいま、
環状線を描いたそっと。
やわらかな微笑みで迎えいれられた懐中はまるで、
堕ちる微睡みの、
さまよう心象の、
あどけない悪戯の、
後に襲う浮遊感に似た温度。
行き場のないこもった熱を奪い取るような寛容。
どこにでも在り、どこにでもゆける。
世界とあなたにたゆたいながら。
ぼくらは水を運び別の場所に移す。水は別の場所でも生きる。
ぼくらは言葉を運び別の場所に移す。言葉は別の場所でも生きる。
水もまた、ぼくらを別の場所に運ぶ。言葉もまた、ぼくらを別の場所に運ぶ。
どこまでぼくらは運ぶのだろう。
どこまでぼくらは運ばれるのだろう。
だから、
水を運ぶぼくらが、水の運び方を間違えると、
水は別の場所で死んでしまうこともある。
だから、
言葉を運ぶぼくらが、言葉の運び方を間違えると、
言葉は別の場所で死んでしまうこともある。
水を生かすように、
言葉を生かすように、
ぼくらは運ばなければならない。
だから、
ぼくらが間違わずに水を運べば、
水もまた、ぼくらを間違わずに運んでくれるだろう。
ぼくらが生き生きと生きていける場所に。
だから、
ぼくらが間違わずに言葉を運べば、言葉もまた、ぼくらを間違わずに運んでくれるだろう。
ぼくらが生き生きと生きていける場所に。
しかしつねに正しくあることは、ほんとうに正しくあることから離れてしまうこともあるのだ。
ときに、ぼくらは間違った運び方で運ぶことがある。
間違った運ばれ方で運ばれることがある。
間違い間違われることでしか行くことのできない正しい場所というものもあるのだった。
ぼくらの病気が水に移ることがある。水の病気がぼくらに移ることがあるように。
ぼくらの病気が言葉に移ることがある。言葉の病気がぼくらに移ることがあるように。
健康の秘訣はつねに水や言葉を移動さすこと、動かすこと。水や言葉に移動させられること、動かされること。
水は、
さまざまな場所で生きてこそ、生き生きとした水となる。
言葉もさまざまな場所で生きてこそ、生き生きとした言葉になる。
ぼくらの身体とこころを生き生きとしたものにしてくれる、この水というものの単純さよ。
この言葉というものの単純さよ。
これら聖なる単純さよ。
冷たい雨が空を濡らした。
赤く染め埋葬する。
したたり
したたり。
運ばれてきた僕ら。
足の震える。
その選択を川に流し。
したたり
したたり。
前世においてきた問いの答えを箱につめた。
密やかな約束を口に結んで。
いま生きる、いのちを、旋律を。
僕らは呼ぶのだろう。
駆け引きはきらいなんだ。
条件を言え。
その望みを叶えてやる。
まぜものは要らないんだ。
余計なものを外せ。
全力を出すのだから。
虚構と
虚勢を拒否しろ。
ことばの
こころの水を濁すな。
ここに明日飲む水がある。

寂しいね。
そう言っておとされた海に二人漂い続けても、ひとつにはなれない。
重なる手、ほだされたのはどちらの体温?
渇いた心だって喉を通らない。
例えばそのまま海に映る星になれたら何千年も一緒なのにね。
星になれない、
僕はずっと干からびた世界を待っている。
喉を潤すだけの役割。
透明で不純物のないその姿だけが何処までも僕を癒してくれた。
人間不信の出来損ない。
それでも良いと許容して、限りあるその身を捧げて。
空っぽのペットボトルを掲げて気付いたんだ。
遅いなんて言わないで。
そう言ってまた手を伸ばして。
おいしい水を飲みたい。
おいしい水を。
もっともっと、
もっとおいしい水を。
おいしい水はどこ。
どこへゆけばおいしい水が。
求め疲れて蛇口をひねる。
ほとばしり、
みたしうるおし、
隅々までしみわたりほぐす。
安心して眠ろう。
川のせせらぎを見つめながら、
私はたたずむ。
あー山よ、空よ、ふるさとよ。
私のこの心に増殖した涙色の巨大な一粒の、哀しみという名の水風船を清らかな川に流そう。愛するふるさとよ、包んでおくれ。不滅の愛を注いでおくれ。透明の翼であの人のもとへ飛ばしておくれ。憧憬を抱いて揺らぐ放物線を見た。 混じりあい、色を変え、光を弾き、吐き出され、分断されて辿りつくのは降る雨の音。 はたはた、こぼれる涙の味。 白く流れて冷やされる。 焦げつきそうな情念の渦を反転させてくれるはず。
目を閉じた、
すべての源としての。

夏よりあつく冬よりさむい何処かの国で、ノドXが微睡んでいる。
五指より長く四肢より短い圧力の内側で。
吐息は白い。
詳らかではないにせよ。
事細かに記述された程度の潔さ。
見えない順路を辿って来ましたようやっと。
渇いた襞に、
ひた、
ひた、
時の雫は沁みこんでいく。
しずむ、
たゆたう、
あなたのやさしさのなか。
ここちいいけれどちがう、
わたしが欲しいのは。
とくべつなことなんてなくて、
ぜんぶ、
ぜんぶありふれたあなたの。
ちがう、
わたしが欲しいのは、
たったひとつ。
ね、
わかるでしょう、
いわせないで。
彼曰く
人生の味は涙と共に味わった者にしか分からない、と。
甘っ怠いだけの人肌燗では酔えない、と。
差し出されたグラスに微炭酸のシャンパーニュを注ぎ、涙を落とした。
貴方を私に酔わせようとしたのは、ここだけの秘密です。
「召し上がれ」
鮭のムニエルを食べた。
この秋、故郷の川に戻ってきた鮭だ。
かつて、稚魚の鮭は川と海のまじわる汽水で躰を海水に馴らしたろう。淡水で育った稚魚の肉は白い。いま紅い肉に鍛えあげ、再び汽水をくぐり生まれた川をめざした鮭。
自分の水を知っているのだ。
そこで果てる。

光も音も失った彼女が触れたもの。
冷たい飛沫、
衝撃と共に切り開かれる世界。
呻くように、
絞り出すように。
その手に
「言葉」
を取り戻した時、
時計は再び回り出す。
みず、
きりさいて。
したたりがちしぶきをちかづけて、
だからほとばしりが、
うみにとける? 
すするように、
おいかけたい。
いつかのちしおがうずまいていた、
とどかない、
おいしいですか。
ふねをさがし、
みおをかさねてついやすこと。
のまれてはもどる。
みず、
さけんで。
取り込んだ過剰を追い出すための水。と涙。
いらない、いらないと駄々をこねて吐き出した。
消しきれないプラスと必要のなかったマイナスを溜め込んで、
椅子のうえひとり片膝を抱き込む。
これよりもうプラスもマイナスも欲しくないの。
何もないまっさらなCをひとくち。
おいしい水は人々に届き 渇いた喉を潤し続けた 
けれど泉は底をついて 歓びの水は枯れてしまった 
人々は湧き出る泉を探すが もはやおいしい水は飲めない 
枯れ果てたのはただの泉か それとも賤しい人の心か 
喪いしものの意味を知っても いつでも覆水盆に返らず…
遮られた言葉が化石になる前に真水で洗う。
平たく削って斜めに放り投げ、水の飛沫を振りまきながら飛ぶ言石。過去の罵詈雑言は遠心力で分解。
おまえなんかいらない。
なんかいいな、
だけが着地する。
ない、
を拾って胸にしまう。
残りは山羊が食む。全て幻。
そして始まり。
わたし/
流れているような/
そうでないような/
夢をみながら/
浮上して/
現像液に浸ります/
ああ、/
一体なにをころしたくて/
銀色の/
あぶくばかりを/
追うのです/
か/
わたしの/
な、い、ふ、/
な、い、ふ、/
ただしい/
なみだ
廻す廻す因果。
漂うは吐き出された異物。
汚しちまった苦しみに誰もが逃げ晒した。
傷みを引き受けた青。
巡る巡る境界。
希望は遺された表面張力。
抱き合った狂しさに誰もが潰れちまった。
穢れは溶け合った藍。
濁る濁る濾液。
天から落とされた毒物。
啜り嚥下した黒。
口に水を含んだまま 
夜明けを待つ真夜中 
またしても空間を誤嚥してしまうまたしても空間を誤嚥してしまう 息をしていない 
崩れ落ちていく神経と思惑 
壊れるしか助かる術が無かった。 
息をしていない
息を殺した。
あなたの水辺に出会うため。
純度の高い愛と苦痛のさなかに、
一筋の風を呼んで。
鮮明なる光と断絶に、
それでもなお、
青き頬と微笑みで。
外側に抱かれた、
涙なく声をあげ、
その瞬間を今も覚えているか。
おかあさん。
行く先に花をまき。
濯ぐ水は今も新しい。

走馬灯末期に過ぎるひとしずく

ちゃぷん。
きょうのおふろにはなにをしずめようか。
かわいいなみだひとつぶと、あなたへのおもい。
入浴剤でかきまわして、もう見えない。嘘、よくみえるよ。
ほんとはわたしだってやさしくなりたかった。
なみだ、
ひとつぶじゃあ、
ぜんぜんたりない。
そんなに泣かせるなやさしくしろばか。
わたしはぜんぶみずでてきてるんだばか。
とうめいなみずでできてるんだばか。
いいのか、
消えちゃうから。
いいの、
いいの、
ね、
そこで、
やっぱり消えないでっていうの、
なしね。
これいじょうは溢れてしまう。
ねつをだして深海にしずむ。
ねつのあるときだけ深海にしずむ。
前髪を深い色のみずがなでていく。
ああ、
いきてるってかんじ。
身体中を駆け巡るおいしい水は毒となり、誰からも、いらない存在になる。
それなのに、夢の中で冒険して目覚めた私は、勇者となって大活躍。
この世で最も清らかな水を探しに出掛ける。
必ず探し当てる。
皆で飲むのだ。
この汚い世界で。
魔法はいつだって存在するんだい。

深閑なる夢の、
手を伸ばす前に、
嫋やかな光の流線を見た。
甘い淡いときめきと、
涼やかなる時が戯言のように、
心の琴線に触れる。
雫になった想いが、
法則を創り、
水の精から愛を授けられた。
雨の正午
出したばかりの毛布 眠る一歳児の睫毛に宿る おいしい水 なんて穏やかな怠惰 わたしはむさぼる 地滑りするほどのゆるみ かつて妬ましいほどに 忌むほどに焦がれたそれに包まれて 膝から崩れおちても傷ひとつつかないやわらかな部屋で 桃の頬で珠になるおいしい水 幼い産毛に轍を残し放たれる 渇き始めた十月の部屋と この胸を潤して くじらのため息:
忍野八海/
おいしい
水?

全てプラスに働く笑顔にたった一つのマイナスがあるとすれば、彼女も笑う不快さだろう。その度に私は気持ち悪くて 笑いながら吐きそうだ。溢れる言葉の洪水に、早く終わらせて。冷えきった箱庭にたった一人 この世に生まれるべきあなたが救うのは、私だけがよかった。最後に改札口で。腕をまわしてあなたの背中を抱きしめると。わたしの手のひらとあなたの体にあたたかい流れが通い合った。わたしはあなたを知らない。あなたもわたしを。どんなに語り合っても。伝えられないもの。言えないものでわたしたちはできていて。でも、忘れない。しょんぼりと俯いた花。幼子の耳をもって母のこえを聞いている。ほら、素直に顔をあげてわらった。それだけでみんなが明るくなった。たおれかけた花の渇きに応える一雨。そのひと雫が沁みてゆく。大昔の生き物が見下ろしている。やがてただ沈黙するだけの化石になると。肉体も、思考も、言葉さえ。ていねいに掘りだして沈黙を読み解くひとだけに語ろう。うつくしかった世界、愛しさのかけら、涙とほほえみ。できることなら、この枯れた体に、もう一度あの水をと。

天空から水晶の雫が落ちるとき、
神の使徒がアロマに包まれ祈りを捧げる。
薔薇の花は変容し、女神のドレスになる。
潮騒と夕陽とラム酒が奏でるハーモニーが至福の高みへ。
女神は泉の水を飲み、
世界は一変する。
透明なグラスに透き通る液体を。
落ちる水滴、
はぜる歓声。
舞台の真ん中に光るお姫様。王子様はまだ来ない。
固唾を飲んで見守れ、客共!グラスを傾け、ぶつけ合え。
響く雑音、
届く世界観。
騒ぎはまだまだ終わらない。

メダカは水の中スイスイ泳ぎ新しい水に喜ぶ。
ハムスターはボトルから上手に水を飲む。
猫は糸のように降りてくる水が欲しくて洗面台に飛び乗る。
わたしにもあの子にも流れるもの。
透明なそれが身体の中で紅に変わるのは、
痛みは皆同じだと目に見せる為でしょうか。
噛みしめる夢の儚い時に、
煌く淡い滴りを掬う。
毀れた真実が優しく微笑む。
羊水の中で永遠だった。
追うこともなく、
逃げることもない愛がとても懐かしい。
洗顔にする手の中の水が、
少し時を惜しんでいた。
壁。
ここが確かに世界の終わり。
長い長い旅でした。
「水を下さい」。
あげられないの、
ごめんなさい。
貝の歌。
蝶の夢。
もしかするとここから海が近いのかもしれない。
壁をハンマーで叩き割る。
何度でも。
海水を真水に変える魔法効果。
水をあげたい。
終わりじゃなかった。

チャチャ登りの坂は、ここが山だと気づく勾配。
教会群と寺社と、そのさきに海が見える。
すぐそばに百年の配水池があり、水元という。
むかしもいまも麓のひとびとに水をおくっている。
ヤスシが下駄を履かせるくらい低い山だが、ここはアジール。
生も死も水も緑もある。
欠けた縁、ひび割れた底。
壊れた椀を支える掌に、なお落ちてくるもの。
果たされなかった約束、伝えきれなかったことば。
そのひとの無念を受けとめる朝の細い喉。
薬を飲み下すようにこの思いも一緒に飲み込んだ。
発祥を求めた愛の残照に、
想いを留めた雫が時の記憶を綻ばさせる。
ルーティーンの夢が溜まりに溢れ、毀れる水になる。
いのちが祈りに転写され、
森奧の繋がる大河に最初の淡い飛沫になった。
こぼれた関係が、しじまを透明にこだましていた。
ふたしかな音色がしずくをひもとき、別の、大切なかんたいになる。
そんなふうな空でしたね。
ぐらすのなかで声をみつめ、
きっとしせんがふれるといい。
とおいかんぱい、
のみほすように、
あなたにかたむく、
はんきょうだ。
透明にかたむく秋の水。
私の喉元にも野ぶどうにも注がれる。
町へ行ってパンを買いましょう。
素朴な田舎パンを買いましょう。
青とオレンジ色のキノコを挟んで一緒に食べましょう。
天のグラスが傾いて、森の奥の水源地を満たします。
森の泉のほとりで、あなたは言った。
O lieb, so lang du lieben kannst!(おお愛しうる限り愛せ)
水の妖精メリザンドの儚い運命を知りながらあたかもそれのように禁断の恋の泉の水を飲んでしまったのだ野葡萄の実も食べ尽くして
少年の異言葉世界への冒険はほろ苦かった。
空白の罠や三択の道。
だぶだぶの腕時計をお守りにして。
その頃父はその詩集に導かれた。
内なる煌めく河に漕ぎだす。
言葉の妖精を追いかけて。
少年の顔で。
旅は終わり旅が始まった。
明日も晴れるや。
ママにこっそり祝杯だ。

川までお散歩しようよ、って貴方はいつも言いました。
土手にある大きな木が胡桃だよ、って教わりました。
帰り道に咲いていた黄色い花は山吹でした。
きれいだねって笑いました。
繋いだら大きな手の父でした。
川が好きな父でした。

朝の改札の濁流に取り残されていた。
ぬかるみを歩いたように、
靴は重く。
どこかに向かうはずの流れの中で、
ぼくらは帰りだった、
帰るべきだった。
騒音の中のほんの隙間に垂らした囁きを、
やがて染められていく、
てのひらに掬って。
折る前の指が愛しい。
小指を結んだ。
透明なひとしずくはつながり、やがてルフラン、流れとなって。
そうして未来を運ぶのだろう。
コンコンと湧き上がる、
そこなき魂たちの奔流を、
さあ船長、出発しようぜ。
世界はお皿の上に料理されてるんじゃない。
これから美味しくしてやろう。
ぐらす傾け、
一息ついてから。
男も女も歳も格好も別なく使える言の葉を、
先入観なくとらえれば、
さらさらと、
しっとりと、
ひたひたと、
じんわりと、
心に染み入るそれは、おいしい水のよう。
毎日ゆっくり飲んでいたい。
僕の体内に渦巻くものが海だとすると、
きっと僕は帰りたいのだろう。
ハンマーの硬い拳を何度も布団に叩きつけ、夜は扉を隠し、昼のうちにすり減らした靴を捨てて。
昔の人は「語る事なし」といった、この丘の上から咆哮しアシカに、笑われよう。
涙をろ過して灌ぐ、
故郷に。
ひび割れて
きしむ心に
降ってきた雨
ぽつ…ぽつ…
それはあなたの優しい涙
温かくて
切ない
甘い雨
いつしか雫は小さな水溜り
泣くこと忘れた瞳からも
幸せの涙が
ぽろり…ぽろり
どうして涙が出るのでしょう。
美味しい水を飲んだのに。
みんなで織った舟の上降りたくないよ、と泣く子供のよう。
頬を伝う線がやがて海を創るでしょう。
あなたがごくりと水を飲む喉仏が動くのを見ていたことを思い出しました。
もう一度乾杯を。
遠い約束をしたのは赤い実がたわわに実った公園。
どきどきの一人旅を手にした日の私だった。
望んだその日は当たり前のようにやって来て、
椅子に座った手にはご褒美のグラス。
4つの花が咲いたよ。
そして約束はまた次の約束へ、
と、
ずっと続くんだ。
どこでもゆける どこでも暮らせる ここに来るまで忘れていた 泳げるってこと 水さえあれば 魚は自由に 手のなかの水。水のなかの手。水にもつれたオフィーリアの手の舞い。オフィーリアの手にもつれた水の舞い。けさ見た、短い夢。あれは、夢だったのか、夢が見させた幻だったのか、父親の腕につながった透明なチューブに海の水が流れていた。その海の水が部屋にこぼれて、それは、ぼくがそのチューブを傷めたのか、はがしたか、切ったのだろう、父親が、ぼくに海水の流れるチューブをもとに戻すように言った。言ったと思うのだけれど、声が思い出せない。夢ではいつもそうだ。声が思い出せないのだ。無音なのに、声が充満しているのだ。川でおぼれたオフィーリアは、死ぬまで踊りつづけた。踊りながら溺れ死んだのだった。ぼくの父親は、癌で亡くなったのだけれど、病院のベッドのうえで、動くことなく死んでいった。でも、ぼくのけさの夢のなかでは、父親は、ぼくのパパは、死んだときの71才の老人のぼくの知っている詩人で、いまはもう辞められたのだけれど、金融関係の会社に勤めていらっしゃったときのお話を聞かしてくださったのだけれど、お金を借りる会社、なんて言ったか、ああ、ローン会社か、そこでお金を借りるひとの自殺率があまりに高くて公表できないと、そんなことをおっしゃってた。そういえば、時代劇俳優だったかな、「原子力は安全です」っていうCMに出てたのは。お笑いさんと、時代劇俳優さん。ふつうでは考えられない自殺率の高さについては考えたのだろうか。原子力はほんとうに安全だと思っていたのだろうか。それともそんなことはどうでもよいことなのだろうか。さまざまなことが、ぼくの頭をよぎっていく。さまざまなことが、ぼくの頭をつかまえる。ぼくの頭がさまざまな場所を通り過ぎる。ぼくの頭がさまざまな出来事と遭遇する。さまざまな時間や場所や出来事を、ぼくたちのこころや身体は勝手に結びつけたり、切り離したりしている。さまざまな事物や事象を、ぼくたちのこころや身体は勝手にくっつけたり、引き離したりしている。だから、逆に、さまざまな時間や場所や出来事が、事物や事象といったものが、ぼくたちのこころや身体を勝手に結びつけたり、切り離したり、くっつけたり、引き離したりするのであろう。
手のなかの水。
腕につけられた海水の流れるチューブ。
阪急電車の宣伝広告。
時代劇俳優の顔。
そういえば、その時代劇俳優の顔、
ぼくのパパりんの顔にちょっと似てた。
部屋に戻って、ツイッターしてて、ああ、そうだ、きのう、RTも、お気に入りの登録もする時間がなかったなあと思って、参加してる連詩ツイートを、怒涛のようにRT、お気に入り登録してたんだけど、ちょっと、合い間に、なかよし友だちのツイートを読んで、笑った。まるで詩のように思えたのだった。引用してもいい? と言うと、いいっておっしゃってくださったので、引用しようっと。こんなの。「前のおっさんがイスラム教の女性に「チキンオッケー?チキンオッケー?チキン!」バスのなかで、笑いをこらえてらっしゃったそうです。音がおもしろいですね。「前のおっさんがイスラム教の女性に「チキンオッケー?チキンオッケー?チキン!」 T・S・ エリオットの「荒地」の What are you thinking of? What thinking? What? を思い出しました。トレドの泉 は どこに あるのか マリア が 赤い 涙 を 流す 時代 救い は どこに あるのか その水が 甘い か 辛い か 苦い か 毒 なのか  皆  答え を 知っている 泉 は 魂 の 中 に 密やかに 湧いている 世の、ぬめりのなかでは生き物たちがひしめき合っている。
それを搾って、すべての者を退けたあとで、
透きとおった水が人の暮らしに流れる。
本来ならば蛇口をひねって、
かんたんに出てくる物でない。
その無色のなかで目に見えぬ物の怖さを覚え、
人はもっと謙虚に生きるべきだ
まな板の上の鯉になって
/渇いて
/縦にされたり横にされたり
/渇いて
/逃げ出すこともできず
/渇いて
/解き放たれるのを待つだけ
/渇いて 渇いて
/望みはひとつ
/おいしい水を 

今日の全てが旋回を始め、螺旋の真中を堕ちてゆく。
大粒の水滴をいくつも追い越して、昨日の底へとたどり着いた。
途端、水滴は下から上へと逆流を始め、明日へ昇る水を見つめる。
既に昨日は乾いていた。
島に水を求める螺旋の叫びは、昨日だけに、反響した。
遠吠えの夜の響きに、愛が寄り添う。
褥に湿気を齎す甘い吐息に、時が嫉妬するかのように渦巻いた。
発する愛が濡れ、潤滑の想いへと、天の賄いに従う。
熱情の汗が愛から溢れ出し、ひとつになった体を浸すとき、夢と愛がいのちの祈りになっていた。

コウホネ川の底には骨が埋まっている 
雨上がりで濁った流れをのぞくと 
カラカラと機嫌良く笑い 
橋脚をコツコツとからかっていた 
台所のとびらをたたくものがあった 
「聖書はいりませんか 大洋にでたいのです」 
花がユラユラと陽の色のほほえみを揺らしていた 
おわりははじまり。
丘の向こうから延々と続くのは、
歓喜の葬列か悲哀のパレードか。
荒野に流れる雫はかなしみのせいじゃない。
ただ、
あなたが、
そこに、
いるからです。
ただ、
あなたが、
そこに、
いるだけで。
ありがとう。
復縁を迫る鳥の声、
再会を示唆する地鳴り、
再起を促す風の音。
どこまでも歩くのだ、
我々のシュプレヒコールを青空の観客に向けながら。
仕立てのよい心を直立させて、
隣人愛の源泉を掘り、
見つめる力で火を起こせ。
口だけの落石を蹴散らし、
山の水を両頬に溜めながら。
うまーい…もう一杯!←悪役商会っぽく。
親しい人の生き様に。
何度も見たはずの映画、一冊の詩集に。
どこまでも高い空、息を飲む夕陽に。
静かにさざ波を繰り返す夜の海に。
裂かれるような恋に。
悲しいまでの自由に。
瞳を刺す燦爛たる言の葉たちに。
こころが震え、零した涙が口元に伝い、初めて気づく。
白内障を患った老婆が絶えず目がしらを拭う木綿に溢れ出す、悲しい泉の白く濁った水底には、窓の外の祭り、金魚を掬う浴衣の少女、揺れるビニールから零れる水、そして狭い金魚鉢から見つめるガラス越しの黄昏。
はじめは小さな腫れだったものが、次第に蜜柑くらいの腫瘍になり、それは妻の一部になってしまった。
「それ」に耳をあてると遠く湧き出る水の音がして、針で突くと澄んだ雫が静かに流れだす。
「それ」は何処か遠い水脈と繋がっているのか、
僕らはよく魚の夢を見る。
ビルの壁を横切る鳥影に
水の流れを思う
遠ざかっていた憧れが
また戻ってくる
いいえ
探していたものは
すでに植えつけられていたのだ
この
一杯の水甘い水が欲しいのにまだ早いと通せんぼうをされた秋。
修行は十分重ねたはずなのに届いたのは苦い水。
水は流れるもの。
この苦い水もいつかは必ず甘美になるものと信じ大きなスプーンで掻き回す。
意地悪な魔物が壁から見つめていても気にしない。
この水は全ての民のもの。
シャッターが上がる。
色眼鏡を外し、区別と差別のパズルを解いたら「ここは闇にあらず」と朝の光が告げ、眩しいだろうと笑う。
馴れ合いの濁った水を捨て、承認のラベルを貼ったボトルに向かって祈れ。
赦しの間欠泉が真水を吹き上げる。
歓声の蕩尽。始まりの授与へと。
火照った顔で叫び出す。
感情が溢れんばかりの言葉は情熱的。
おいで。
ペットボトルから天然水をぶっかけてやるから。
もう少し落ち着いてお話ししようか。
ねぇ、
神様?
行間に並んだ瓶詰めの水。
熱せられたラベルはくすんで読めないが、
まだこぼさない。
ピンクの小屋をのぞき見してきたアナグマが、ロングランの結末を耳打ちする。(大団円、と思いきや…!)。
この夜。
文字がことごとく冠水し、
芽吹き、
それぞれの狸穴町に帰港していく。
説明は与えられなかった。
ろくでもない安堵のために、襤褸を出さぬために。
青い空を喪った。
空間を埋め尽くす質の在る空虚。
かつん、と固くやわらかな爪の先が硝子にぶつかった。
隔絶されたのは内と外のどちら。
たぷり、と。
ちいさな透明なかたまり。
見つけた。
最後に。
澄みきったおいしい水を
体いっぱい飲んだなら
わたしのようなにんげんも
透き通るこころを持てますか

露出したはだえには、静かにしずくが積もっていく。
冷えていく感覚が遠のいた風景を再生し、忘れていた渇きが喉を締め上げた。
したで辿る、それは壁にぶら下がる死んだ貝殻の滑らかさで困惑させた。
甘い蜜をおくれよ。
再び乾くから。
どこまでも逃げていく、
約束の陽炎。
人々は渇いた体を引きずり 水を求めて旅に出る 行けども求める泉はなくて 数多の人が倒れていった わずかに残った疲れし者たち とうとう果ての地に着いた すると一人の女の子が指さす 
ねえ、
あの赤いものは何? 
それは一輪の薔薇の花 
おいしい水を飲んで咲いた
さあ、
間に合うか。
ダッシュでラストスパートにもぐりこむ。準備はいいか?
飲むなら今しかない。
鬼の居ぬ間に、私が夜中に流した水の音を 
寒空の下、ベランダで髪を切る 
魚水を得た色彩に飛び込んだ私はここです 
変わらないものを変わらないって 
きっぱり言って
ここに立ててる私はここです 
薄いような無限の傷にも夜行塗料が塗られたら 
光って 
あなたは見つけやすくなる 

改札口を出た広場に「おいしい水をどうぞ」の貼り紙があったので掌に受けて飲んでみると、たちまち二人の過去が走馬灯のように(って私語じゃなくて死語?詩語?)甦ったのだ。
私たちは
「私」と「たち」
から成る化合物。
「人」と「間」のようにね。
底から一滴
一滴、
生まれてきた音と
思い出は、
空から身投げした
ピアノに始まったのだ、
この
時のような
水は、
飲むための水。
飲むための水。
名残惜しく唇を舐めて。
グラスに残る最後の一滴まで飲み下す。
今宵の舞台のフィナーレは観客と役者にしか分からない。
お姫様は王子様に会えたのか。
魔女の手引きにご用心。
清められた水で全てを包め。
肱に抱かれて今は眠る。
よい夢を。
山高帽をかぶった太った道化「ボロボロコウモリが一番」曰く「晴れた日には適度な日光浴と、雨の日には適度な雨除けができます」「黒じゃなきゃいけません。シックな紳士にはやっぱり、黒のコウモリじゃなきゃ」どこに行くのか問うたなら「わたくしのお墓です」「生きているうちが昨今の流行り」私は水差しを差し出して「まあ、いっぱいおやんなさい」「そんな体じゃ、どんな棺桶だって入れないでしょう」道化はこたえる「今までだってこの体でやってこれた。無理な事はないでしょう」道化はわらう。私も笑う。
よく晴れた秋の空。
アキアカネの死体をそっと跨いで「では、ごきげんよう」傘をくるくる、太った道化は立ち去った。山高帽をひょこんと傾げて。
私は思う。
いつか私の旅が彼の後を追うのなら、
喜劇な奇術で窮屈そうな彼のお墓に花を手向けよう。
そうそう、忘れずに。
その日一番のおいしい水を、そっとお墓にかけてあげよう。
彼はいうだろう「適度な雨が降ってきましたな」
すべての、出会いと生き物が潤う水は流れて戻り。
いつか私の墓にも、
誰かがかけてくれるだろう。
その日一番のおいしい水を
Wasser,l'eau,eau,acqua,agua,aqua,υδωρ,вода,woda,água,water,màiya,ماء,apă,vanduo,מים,wai,voda,víz,woda,물,「おいしい」をつけたらみんなが飲めると思うの


*** おしまい ***


◆◇

この作品は、宮尾節子さんの呼びかけでつながったツイッターでの連詩を、私が独自の視点でつなげた作品です。ただし、作品中に使われた言葉には一切手を加えていません。私が行ったのは改行のみ。

オリジナルをまとめたものはこちら↓
☆同時多発ツイート連詩【おいしい水を 完全版】pw10スペシャル・自由参加式。
http://togetter.com/li/385569

言葉をつむがれた人たち(敬称略)

宮尾節子 田中宏輔 二匹猫 海埜今日子 佐藤幸
hide 明乎 森山恵 金子彰子 バンバサナエ
葉月野 雨音 三角みず紀 黒鍵盤 fumikaya
小久米ノ 末永鶏 秋田高志 cccouk 黒崎立体
上野江来晴 はすむかい あんぬ 天婦羅★三杯酢 junicci
100g10yen MPD-まゆみっくす Michi-Angela 広瀬鈴 すえさかあい
じま 佐藤真夏 さいとうみわこ ヤナ・ヤヌー Kaorin♡愛
なぎさひふみ しゆう(ねこうさぎ) 長谷川游 葛餅細魚 あまぐも
がらすだま ときあ Misty せいや 青峯愁夢
深青 あゆすけ はだおもい ハコ takanori kato
ゆーこ なべのふた。 北爪満喜 小島きみ子 須永紀子
鈴木博美 山田兼士 ゴースト℃ 明日架 こたにな々

以上の詩人さんたちによる連詩です。


自由詩 同時多発ツイート連詩【おいしい水を】 こひもともひこ・リミックス Copyright こひもともひこ 2012-10-29 20:43:57
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