あの大欅
subaru★

桜守はいつも見ている
敷居の前を

週末に見慣れた木立
榎が化けた大欅が
獣たちを一瞬で覆い隠す

昔 此処が夜のしじまだったように
限りない静かがありふれていた

ダカラ思イ出ス度ニ
懐カシサヲ掻キ集メテ
イタズラ心デ隠スンダ

歯痒いノハ アナタ達デハナクテ
焦レッタイノハ キミ達デモナクッテ
一番セグルシイノハ ボク ナノカモシレナイ

日差しから秋の歌が肩を叩いて
ほら そこと指した先は
獣たちの幾つもの影が
野芝の上でグンと背伸びする
その姿が何とも愛おしい

とは言っても

昔と変わらず穏やかで居たいと
謹厳実直な大欅は
ほんの少しの昔を映し出しながら
自分の影を走らせていた

そんな寂しがり屋の足元に
秋の花が手向けられた
瞬きをした隙に

桜守はいつも見ていた
敷居の前を

それをまたいだ
何方かが置いたのだろう
瞬きをした隙に


自由詩 あの大欅 Copyright subaru★ 2012-10-29 17:28:18
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