私が人を喰らう時
水瀬游

私が人を喰らう時
人は塩っぱい汗の味がした

道行く人を喰らう時
人は泥と草との味がした

私が隣人を喰らう時
人は木を噛るような味がした

私が父を喰らう時
父は魚のはらわたのような味がした
あまりの苦さに耐え兼ねて 涙が出そうになるほどの

私が母を喰らう時
母は暖かいグラタンの味がした

私が我が子を喰らう時
我が子は塩辛い海の味がした
赤子は どうやら海から来たようだ

私が人を喰らう時
人はいつも忘れがたい味がした

私が私を喰らう時
その時私は一心不乱で
私を喰らわねばならぬ時
私はただ 肉と骨との味がした


自由詩 私が人を喰らう時 Copyright 水瀬游 2012-10-27 23:36:30
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