秋風がさようならと言っている。
元親 ミッド

10月も、もうじき終わってしまって
きっと僕らは置き去りにされるのだ。
秋風がさようならと言っている。
一々、挨拶などいらぬのに。


ただ一羽、乾いた秋空の高い処をすべっていく鳥の
あのさみしそうな感じはどうだ。
煙草の煙は、非常階段の手すりから乗り出して
その鳥に触れてみたいと、その手を伸ばしてみるのだけれど
到底、さびしさと自由とを、同時に手に入れた
一羽の鳥を捕まえることはできなかった。


人と人とは、同一の言語でなければ
会話が成立するのは難しい。
だから、世界共通語なんてもので
会話をする必要がでてくるんだ。
だけど、僕にはキミの話す言葉がわからず
キミには、僕の話す言葉がわからないようだった。
だけれどそれでも、僕らはお互いに
お互いの言葉でしか話そうとせず
会話しているふりだけしていた。
僕らの共通語って、どこにあるのかなぁ。


わかり合えぬさみしさを
人は、わかりあえているという
催眠術で乗り切ろうとしていて
或る日、実はわかりあえていないことに
はたと気がつき、救いようのない孤独に襲われる。
本当は、はじめからわかりあえていなかったのに。
相手を指さして、切実に訴えるのだ。
「あなたは変わってしまいました」と。


ただ一羽、乾いた秋空の高い処をすべっていく鳥は
これからどこへ行こうと言うのか。
煙草の煙は、今度は広がる網のように拡散してみるのだけれど
その鳥に触れることはやっぱりできず、いらつくように舌打ちをした。
誰にも、さびしさと自由とを、同時に手に入れた
一羽の鳥を捕まえることはできなかった。


秋風がさようならと言っている。
一々、挨拶などいらぬのに。


自由詩 秋風がさようならと言っている。 Copyright 元親 ミッド 2012-10-26 11:47:22
notebook Home 戻る