おやすみなさい
乱太郎

おやすみなさいと
私の周りで泳いでいた言葉の魚たちがささやく
まるで百年の眠り姫の林檎のように

私が初めて口にした小魚は母の胎盤の中
臍の緒に繋がれて
息遣いの音と共にやってきて
生きているという意味も知らずに食べていた

おやすみなさいという会話も聞こえてきたが
それは私にだったのか母にだったのか
まだ魚の体型を見たことのない世界にいた頃の話

でもその頃おやすみなさいと言われることは
生命を繋ぐことだったはず
しかし私はいま臍の緒が切れた羊水の中で
群れをなした魚たちに食い千切られようとしている



自由詩 おやすみなさい Copyright 乱太郎 2012-10-25 16:41:38
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