浮島
そらの珊瑚

 人の爪の根元に、白い浮島があることを知ったのは小学生の頃。

「これね、大きいほど元気な証拠なんだって。病気になると薄くなったり、小さくなったりするらしいよ」
 友達から教えてもらったなんの根拠もないであろう情報を、本当だと無邪気に信じて、時折見ては自分の健康状態を把握するのが習慣になった。

 今現在の爪はというと、親指にははっきりとした浮島があるものの、あとの指は霧にかすんだような、まったくもって心もとないはかなさだ。
小指にいたってはほとんど沈みかかっているようなもの。
 誰も上陸しない浮島。もしかしたら誰かが乗れば、たちまち沈んでしまう類いのあっけないものであるかもしれないから、誰も乗ろうとしない。存在理由も不明で、なくても誰も困らないものを、今この時もせっせと作り続けている健気な爪。
 健康であってもなくても、今、あなたは生きているよ、と伝えているのだろうか、なんだかとても愛おしい。


自由詩 浮島 Copyright そらの珊瑚 2012-10-25 08:42:56
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