刹那い
望月 ゆき

かつて
わたくしは
花、だったのですよ
よろしければ
咲いてみせましょうか


言うと
水、のようなそのおかたは
しなしなとゆびを左右に
ゆらして
ていねいに
それをこばむ

   
  いいえ
  その必要はありません
  なぜなら
  そのことにつきまして
  じゅうぶんにぞんじております

  あなたが
  花、だったそのとき
  あなたはずっと
  わたしのなかにひたっておりました
  から
  ひたすら、
  に


それならばなぜ
あのとき
わたくしの花弁を
むげにしたのですか


問うと
水、のようなそのおかたは
ていねいに
かたむいて
わたくしへと
こぼれる


  わたしはそのとき
  じゅうぶんに
  あなたのなかにしみいっておりました
  ので
  あなたとともに
  ともに
  散りおちたのですよ


ならば 
どうしてずっと
ずうっといっしょに
いてくださらなかったの
です


  あなたのなかは 
  とてもここちよかったのです
  けれど
  どうしてもわたしは
  あなたの毛穴
  から  
  しゅうしゅう、と
  空にのぼらなければならなかった
  
  そうしてそれは
  すべて
  あなたを
  ふたたびうつくしく
  咲かせるため
  と
  したなら


水、のようなおかたは
舌の上で
ていねいに
そう語ると
すぐにまた
わたくしの
あしもとふかく
ふかく
へと
こぼれて
消えていかれた




自由詩 刹那い Copyright 望月 ゆき 2004-12-16 23:25:50
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