彼女の来歴
オイタル

松の根元に
腕を組んで眠る彼女である

彼女はここいらの生まれではない
こんなにも湿った(朝の)あぜ道のそばでは
彼女は豊穣なる火の国の生まれだ
だからよくしゃべりもするし
燃えたりする
こげたりも

彼女は水のたまりを許さない
彼女はよく食べ
肺や背中でそれを燃やす
雨で冷やしてニュートラルに戻しては
酸化のために
再び目から積み込んでいく

彼女はこんな暗い
古ぼけた暗渠の生まれではない
彼女は風が十字に渡っていく川の
土手下の生まれだ
水草が空を覆うほどに
明るい夏を次々と踏み分けていく

彼女は衣服を好まない
絶え間なく乳房をおおってはそれを開く
愛のために 正義のために
すりよる猫を抱き上げては
闇の奥へと滑り落としていく
愛のため 正義のために

彼女は断じてここいら界隈の生まれではない
彼女は街の中で生まれた(または歴史の中で)
たわわに実る葡萄や杏
その粒や房が赤や黄色に明滅する
硬い 透明な街の中で
ゆっくりと浮かんできたのだ


自由詩 彼女の来歴 Copyright オイタル 2012-10-20 20:45:48
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