山と渓谷
カワグチタケシ

二十一時 十月最後の木曜日
初夏のように澄んだ夜
湖面に映るオレンジ色の灯火は
一列に波紋にふるえ
果てしなく星へと続く道でした

サクリファイス 山と渓谷
地上にて想う
アスファルトを踏んで

柔らかく湿った苔におおわれた
樹海を行く
サクリファイス 山と渓谷

世界の秘密を封印する
鍾乳洞 風穴/氷穴
夜の羽ばたきが響く
静寂に包まれて
清潔な数をかぞえて眠る

サクリファイス 山と渓谷
ターンパイクから望む
はるか地上の円錐形

はるか頭上の南十字星
オレンジ色の灯火と
サクリファイス 山と渓谷

メロニィ メロンの匂いのする女
同じバス 同じ湿度の中で
揺れている人たちは
夜の傾斜面に点在する羊型は
果てしなく星へと続く道でした

そして羊飼いたちは今夜も
野宿をしながら交替で
羊の群れを見守っています

神殿 柱廊 流砂 そして
サクリファイス 山と渓谷
石に刻まれた眼は永遠に開く

今日が世界の終わりなら
それもいいね
夕暮れから黄昏へと
なだらかに終わる世界に
流れる 新しい歌を聴こう

惑星の表面積と夜の影
ゆるやかに止まる時間に
流れる 新しい歌をうたおう

サクリファイス 山と渓谷




自由詩 山と渓谷 Copyright カワグチタケシ 2012-10-19 22:39:06
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